やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

miHoYo『原神』があまりにもヤバい件


 『崩壊学園』などで知られる中華ゲームデベロッパーのmiHoYo社が新作ゲームタイトル『現神』で派手にやらかしている一件、どう考えてもアウトなので興味深くウォッチしているのですが、いろんな釈明をmiHoYo社が繰り出す割には「何故その仕様になったのだ?」というあたりでぐるぐるとしてしまうので、言葉通りに受け止めるセキュリティ関係者はほぼいないのではないでしょうか。

モバイル版「原神」、クリップボードの情報取得が判明

『原神』クリップボード情報を自動で読み取る問題について公式が回答。アップデートで削除予定

「原神」、ゲーム終了後は不正防止プログラムが停止する仕様に 開発元はスパイウェア疑惑を否定

 もちろん、ゲームの世界とは言えMMOでは特にチート対策が必要で、プレイヤーが同じメタバース(ワールド、鯖)で一緒になっている以上は有利不利がチートで出てしまうとその世界は崩壊してしまいます。したがって、DOTA系、LoL系、FPSだけでなく競技性のあるオンゲでは必ずと言っていいほどチート対策を施すのが通例です。

 私が良くプレイする村ゲーム系(GoW系)やEVE Onlineなどのスーパーメタバースでプレイするゲームでは特にチート対策は大がかりですが、いわゆるプッシング(複数アカウントを使って生産性を数倍にし、ゲームを有利にするプレイング)対策として取られてきたチート対策はことごとく突破されてきた歴史とともにあります。RMT対策もプッシングも基本はそこに相場がありプレイヤー同士で物資の交換ができてしまえば必ずゲームの外に市場ができるのは当然なので、結果として、ゲーム公認の取引市場を作るか、プレイヤー同士の資源がやり取りできないようシステム側でホールドをかけてしまうのが通例です。それでも、ゲームIDごと売買するのが世界では当たり前になっていて、それを取り締まりたいデベロッパー側が見つけ次第BANする、でもチートする人物はどんどんIDを取る、のいたちごっこになっておるわけです。

 翻って、今回のmiHoYo社の対応は実に中国系デベロッパーな手段であって、文字通りゲームとは別に稼働するプログラムを格納してパソコンの中に入ってチート系プログラムがデータを改ざんしたり複製したりするのを防ぐためのスパイウェアをブチ込むという、レガシーだけどオーソドックスで、そして確実に違法なものと見られます。全然駄目です。さらには、iOS向けにはクリップボードの文字列を盗み出すものが搭載されていて、miHoYo社の「製品版移行前に残していた仕様であった」という釈明が本当だったとしても、こんなものが許されるわけがないだろという内容です。

 iOS版クリップボード騒ぎはiOS14.x以降で実装された外部チェック機能で露顕したもので、逆に言えば、iOS14.xがAppleによってリリースされていなければ長らく分からないままになっていた可能性が極めて高いです。まあ、釈明の内容はともかく分かっていてやっていたんじゃねえのと思われてもまったく不思議ではありません。そこにいたるApple側の審査がなぜここまでザルだったのかも含めて気になって仕方がないところではありますが、アプリ審査でクリップボードの内容を吸い出す仕組み自体は制限されていないのでチェックが甘かったのかもしれません。仮にそうであったとしても、本来ならばApple側もちゃんと声明を出すべきものではないのかなとも思います。

 PC版にせよiOS版にせよ、明らかに「miHoYo社はプレイヤーの情報を取りに来ている」方向の仕様になっているうえ、これ単体では個人情報保護法違反ど真ん中の事案ですから、これを見たとき普通に「個人情報保護委員会はmiHoYo社に事情を聴き、場合によっては立ち入り検査も行うべき」と思いますし「Appleもアプリ審査の過程について、本件の見逃しについて何らかのアナウンスをするべき」と思います。そのぐらい、まあ滅茶苦茶な話です。

 ゲームデベロッパーが作品の品質を保ち、プレイヤー間の公平性を保つために強いチート対策を講じたいという気持ちは分かります。しかしながら、明らかにマルウェアも同然のものを、それも自前開発の隠しファイルとして持っていたというのが事実であれば駄目なものは駄目です。それは、プレイヤー側の仕掛けではなく、ゲーム内の巡回をしっかりとやって、見つけ次第BANを繰り返すような仕組みをきちんと運用するべきです。

 また、miHoYo社が中華であるということも踏まえて、中国政府・中国共産党による国民情報法による情報吸出しに加担するのではないかという疑いまで持たれているようです。これについては私はどうなのか良く分かりませんが、あくまで可能性としてそのようなことは基本的に起き得るという前提でこういう問題は観ておいたほうがいいのではないかなと感じます。

 どちらにせよ、あまりにもヤバいし問題が大きすぎるので当局はちゃんと立ち入りでも何でもちゃんとやっておいたほうがいいと思うんですよね。マルウェア仕込んで堂々とぶん回すゲーム運営とか、業界全体の信用にかかわることですから、どうにかしたほうがいいんじゃないでしょうか。さっさと。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.310 miHoYo『原神』のやらかし案件、旅行サイト・グルメサイトを巡る法的紛争、気象庁の広告トラブルなどに触れる回
2020年9月30日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】miHoYo『原神』があまりにもヤバい件
【1. インシデント1】旅行サイトやグルメサイトなどでの口コミ・評価を巡り多発する法的紛争
【2. インシデント2】気象庁サイト広告掲載やらかし事案についての雑感
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

台湾から感じるグローバルな時代の小国の力(高城剛)
アップル暗黒の時代だった90年代の思い出(本田雅一)
英語圏のスピリチュアル・リーダー100(鏡リュウジ)
Netflixを「ちょいはやチェック」する(西田宗千佳)
人生の分水嶺は「瞬間」に宿る(名越康文)
結局「仮想通貨取引も金商法と同じ規制で」というごく普通の議論に戻るまでの一部始終(やまもといちろう)
実は「スマート」だった携帯電話は、なぜ滅びたのか ーー10年前、初代iPhoneに不感症だった日本市場のその後(本田雅一)
AIの呪縛から解き放たれ、なにかに偶然出会う可能性を求めて(高城剛)
ネット時代に習近平が呼びかける「群衆闘争」(ふるまいよしこ)
夏の帰省に強い味方! かんたん水やりタイマーセット「G216」(小寺信良)
なぜこれほど本は売れなくなったのか(岩崎夏海)
動物園の新たな役割は「コミュニティ作り」かもしれない(川端裕人)
手習いとしてのオンライン・エデュケーションのすすめ(高城剛)
週刊金融日記 第309号【東大現役合格率上位15校すべてが男子校か女子校だった、麻生財務大臣は森友問題でG20欠席】(藤沢数希)
「夢の国」に背徳が登場する日はやってくるのか(高城剛)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ