やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

コロナ後で勝ち負け鮮明になる不動産市況


 コロナウイルス流行下の日本経済は、私たちにいろんなことを教えてくれました。その最たるものは、世の中には確実な資産などないのだということですが。

 接待を伴う飲食店に始まり、路面店の賃貸収入に依存してきた不動産業界の混乱、さらには安全だと思っていたREITがあれこれ起き、暴落したかと思えば突然暴騰し、むしろ上積みを狙うファンドが続出する中で都心部では賃貸住宅を中心に突然の減賃圧力と郊外への人の移動、リモートワーク対応に追われる会社のオフィス返上と、いややっぱりオフィス必要だわという返り相場、一人勝ちと思っていた渋谷が突如としてアカン雰囲気になり、渋谷の地価高騰で溢れ出たイット系が流れつく五反田の活況、沈下していたはずの池上線・目黒線沿線の盛り上がり、などなど。

 気が付くと湾岸や中央区港区の一部エリアはむしろ生活利便性が再評価されて物件価格が逆に高騰する中、オールド住宅街であった世田谷区、中野区、大田区はどうやら価格面での苦戦が始まりそうです。人の流れに合わせて不動産市況が変わるのは世の常ですが、同じ世田谷区でも駅前徒歩5分圏内の住宅地は堅調なのに対し、憧れの23区内マイホームで狭小住宅と馬鹿にされながらも一定のブランドを得ていた地域に空き家が続出して沈滞相場ではフリーレントも含めて二割近く相場が下がるなんて誰が予想したでしょうか。

 かくいう私も保有物件は都内も地方都市も利便性重視で路面店依存だったのですが、思ったような困難に直面することもなく、隣地の一部買い上げにも成功してどうにか乗り切れそうな塩梅です。似たようなクラスの投資家の皆さんの苦境を横で見ていると、私は運が良かったとしか言いようがない。この点に関しては、私が具体的に動いて何かしたというよりは、むしろただ座ってネットを見ていただけです。何もしてない。

 そして、日本だけでなく世界の中央銀行が大量に資金を市中に供給し、その一方で実需要はコロナのお陰で減少していることもあって、経済学の教科書通りに資産バブルが勃発し、もう市場で値段がついているもので貨幣価値から兌換できるものならば何でもそこそこ値上がりしてしまうという現象になりました。利益が上がっていない銘柄でも買われる展開は久しぶりです。それでも、実需の落ち込みと激しく連動しているところは青色吐息であり、輸送も航空も真っ先に墜落してしまう相場を見ながら「うまい逃避ができる銘柄はないか?」と探し回る毎日でした。ポートフォリオの入れ替えを進めてみて思ったのですが、これは本当に経済の根底のところ、人の動きや商品・サービスの在り方が変わり、何が付加価値なのかを冷静に再定義できた人物や企業、社会、国家だけが上手くいくのではないかとすら思いました。気のせいかもしれませんが。

 結果として、コロナショック時期はキャッシュイズキングで可能性を広く持っていたものが、夏を経てコロナが収束しないという確信とともに通信・ハイテク株への回帰と都心・郊外・地方都市の不動産偏重へとシフトしていきまして、我ながらこれでいいのかと自問自答しながら撤退物件を漁っています。

 9月に入って、9月末までに、あるいは10月末までに処分したいのでノールックで買ってくれという相談が多数舞い込むようになりました。2月3月と同じような展開でしょうか。3月はまあ決算期ですから分からんでもないですが、ちゃんとしたテナントでほぼ満室のオフィスビルとか、まだ築浅でやや都心の低層マンションなどなどゴロゴロ出るようになり、人によってはチンパンジー並みの大回転でB/Sパンパンにして大勝負する人たちが出てきてもおかしくない状況になってきています。いまや、物件さえあれば地銀がどんどこ貸してくれる状態になる一方、通常のビジネスにおける与信はどんどん厳しくなって、ああ、カネは余ってるけど実需がとても不足しているんだなあという実感だけがどんどん強くなっていきます。

 そして、こんな経済は恐らくそう長くは続かないでしょう。怖がり過ぎるぐらい怖がっていていいと思います。とにかく安全なものへ、価値のあるものへ、利回りよりもいざというとき逃げられるものへ、そういう即時即物的な退避を考えた投資にならざるを得ません。今回の一連のコロナ相場で、人工知能に取引を任せていたファンドがどこも大損し、コロナ時代の実需読みをしていた投資信託やファンドははるかに成績が良かったというのも、今回の相場がいかに過去のありようを踏襲してこなかったのか、材料に対する相場の動き方を一変させたかを物語っていると思います。本来なら売りの材料であるはずが、キャッシュが余っていると「これで悪材料出尽くしだ」と踏み上がる馬鹿が続出して、ああ馬鹿なんだなと思ってたら馬鹿ごと相場が舞い上がって利口だと思っていた私が馬鹿でしたみたいなことになるわけであります。

 これから秋から冬になり、インフルエンザも流行する季節になって、コロナウイルスも徐々にまた増えていくのだろうと思うわけですが、経済を回していこうというノリはより強くなっていくでしょうからやはり駄目だったときの備えをどうするのか、よく考えながら相場を見ていこうと思います。

 まずは、何よりも皆様のご健康と神のご加護をお祈りしております。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.311 コロナ以降の不動産市況の現実を睨みつつ、米中対立下における陰謀論やSNS裏アカ特定サービスなどを語る回
2020年9月30日発行号 目次
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【0. 序文】コロナ後で勝ち負け鮮明になる不動産市況
【1. インシデント1】米中対立下で亡霊のように蘇る「ジャパンハンドラーズ」なる陰謀論
【2. インシデント2】SNS裏アカウント特定サービスという名前の興信所ビジネス現在進行形
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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