高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

変化の本質は、コロナではなく、自動化に向かう世界

高城未来研究所【Future Report】Vol.486(2020年10月9日発行)より

今週は、金沢にいます。

9月後半から驚くほどの観光客が金沢に押し寄せています。
これは、連休やGo To トラベルキャンペーンの影響と、長い間の自粛からくる反動なのでしょうが、金沢駅前の人出は今年5月の調査開始以降で最多となり、彼岸花(曼殊沙華)も丁度見頃とあって、ラッシュ状態が途切れません。
まるで、新型コロナウィルス感染拡大は、「なかったこと」のようにも見受けられるほどです。

一方、あたらしくできたホテルに宿泊すると、60%を満室として設定し、朝食時のソーシャル・ディスタンスをキープしているのが伺えます。

一般的にホテルビジネスは、稼働率75%〜80%を割ってしまうと経営が成り立たなくなりますので、「あたらしい満室」の概念である60%は、たとえ満室になっても相当厳しい上に、いまだ大きな宴会も開催できません。

伝統的なホテルは、ルーム、フードやアクティビティ、そしてパーティ需要の3本柱が収益のベースとなり、ルームの最大稼働が60%、同じくフードやアクティビティも60%、そしてパーティ需要0%であるならば、売上見込みはおよそ70%減まで落ち込んでしまいます。

一方、インバウンド・バブルの波に乗って建てられたあたらしいホテルは、収益比率が異なります。
客室空間をコスト・パフォーマンスの観点から重視し、宴会場やレストランなど他の機能をスリム化。
特に、大浴場をウリにしている施設は、客室にある風呂の清掃やタオル交換の必要がなくなり、原価を抑えることができるのが特徴です。
この手の客室面積当たりの利益率が高い宿泊特化型のホテルが増えたのが近年の傾向で、言い換えれば「インバウンド用ホテル」、もしくは、全売上の半分近くを占めることから「中国人用ホテル」と言うこともできるほどです。

また、宿泊特化型のホテルは、結果的にコロナ渦では開催できないパーティ需要を見込まなくても良いことから、Go To トラベルキャンペーンは、宿泊特化型ホテル、北陸で言えば「アパホテル」などに有利に働きます。

さらに、朝食時の「3密」を無視すれば、稼働率をあげることも可能ですが、それでも、アーニングがまだまだ低く、当面ビジネス的にホテル業界は厳しい状況が続くと思われます。
このアーニングとは、基本室料の売上比率を示す指標で、客室の正規料金に対して実際に販売された料金の割合です。
これは、既存の旅行代理店ではなくインターネットから予約する宿泊者が増えたため、繁忙期に高く、閑散期に安く部屋を提供できる流動性を見極める、あたらしいホテルビジネス指標として注目されてきました。
シーズンによってチケット価格が異なる航空会社のイールドマネジメントも同様な概念ですが、双方回復見込みが立つ様子が、まったく伺えません。

このようなことからこの先を懸念し、すでに売却先を模索している金沢のホテルも少なくありません。
問題はコロナではなく、人口40万人しかいない街に、旅館・ホテルの客室数が1万室を超え、名古屋を超えるほど宿泊部屋数が急増してしまったことに本質的原因があるわけですが、売却金額は、通常アーニングから算出されるため、現状では目も当てられない低い金額になってしまい、なかなかまとまらないのが現実です。

どんなビジネスでも、安値で仕入れて高値で売ることが鉄則なのですが、家の売却などを見ていると、せっかく高値で売れても、同じタイミングで次の家を高値で買ってしまったら、利幅を最大限にすることができなくなってしまうものです。
家の売却は、高値で売れたら、しばらく賃貸で過ごし、再び市況が安くなったタイミングで次の家を買うのが正しいと言われており、しかし、人は不思議と売却がうまくいくと気が緩んでしまうもので、ついつい財布の紐も緩んでしまい、我を忘れるようにあたらしい買い物をしたがるのです。
いまは、「買い」の時期ではないことは明白ですので、今後経済は、想像以上にまわらなくなるでしょう。

どちらにしろ、いままで自著でも何度かお話しして参りましたように、00年代の半分、さらには三分の一の売り上げや収入になっても続けていける企業や個人しか、今後、結果的に生き残ることはできなくなると考えます。
この話をはじめた十年前には、「意味がわからない」、「頭がおかしい」と、近しい人たちにも散々言われたものですが、いま、まさに現実になろうとしています。

今週、みずほファイナンシャルグループは、希望する社員を対象に週休3〜4日制を導入する方針を明らかにしました。
勤務日数に合わせて基本給を変動させ、週3日勤務であれば6割に再設定し、今後、大きく揺れ動く金融業界再編の準備に入っていますが、こうなると、もう正社員の意味が希薄になり、副業を考えざるを得ません。

また、これも自著で何度かお話しいたしましたように、これからは「余暇」ではなく、「主暇」の時代となります。
それゆえ、是が非でも「やりたいこと」を見つけなければ、「あたらしい時間」のなかで、生きる活力を見失ってしまうのです。

このような動きは、いま、つまりは「ウィズコロナ」などと言われるトレンドワードにはじまったことではありません。
変化の本質は、ホテルの予約や航空チケットの購入でもわかるように、デジタル・テクノロジーによる自動化が加速し、世界を変えようとしているわけですから、元に戻るはずがありません。

コロナではなく、自動化に向かう世界。

多くの人たちがもっと考えねばならないのは、ここにあるはずだと、寒くなってきた金沢で想う今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.486 2020年10月9日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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