※高城未来研究所【Future Report】Vol.570(2022年5月20日発行)より

今週も、ハバナにいます。
キューバ革命以降、鉄のカーテンの向こう側に入ったキューバですが、1970年代から1980年代前半を通じ、キューバにとって西側最大の貿易相手国は日本でした。
いまも病院をはじめ、ハバナ市内の施設をまわると「JAICA」の文字を多々目にします。
90年代にはフィデル・カストロ議長も来日するほど両国は近い関係にありましたが、2001年に誕生した小泉政権以降、日本政府は米国に忖度する国際政策へと完全に切り替わり、キューバとの関係も疎遠になっていきます。
これは現在も続いており、貿易どころか米国の意に従い、日本からキューバへ国際送金することもできません。
このような状況から、キューバは良くも悪くも「グローバル」の圏外に位置していますが、世界に冠たる輸出産業があります。
それが、医療です。
90年代初頭、ソビエト連邦が崩壊したことにより、キューバは国家財政破綻に直面するばかりか、石油から食糧まで輸入することもできず、社会崩壊の危機にさらされていました。
その時、国家の未来のために投じたふたつの事業があります。
それが、外貨を稼ぐ観光業と医療だったのです。
なかでも国家の命運を賭けたと言っても過言ではない医療産業への投資が大躍進。
観光大国と言われるキューバ観光産業の三倍を稼ぐまでに成長し、特に中南米諸国やアフリカへの医師の派遣や独自に開発したワクチン販売などで多くの外貨を稼ぐことに成功しています。
現在、キューバは国民1000人あたり世界で二番目に医師の数が多い国家です(一位はカタールですが、カタール在住キューバ人医師が多数)。
平均寿命はおよそ80歳と米国と大差なく中国より上に位置し、対人口比率では100歳以上が世界一多く、また、街で踊っている高齢者を日々見かけることから、数字に表れていない健康寿命が長いことが伺えます。
フィデル・カストロ前国家評議会議長の医師団団長を務めていたセルマン・ハウゼン医師は「120歳クラブ」を主催し、100歳まで健康でいられる秘訣として、第一に「モチベーション」を挙げているのが面白いところです。
個人的に長寿の秘訣は、西側諸国にはない独自の医療システムと、南の島ならではの緩やかな時間の流れと社会システム、そして気候だと思ってますが、他に類を見ない予防医学の取り組みには着目すべきものがあります。
およそ100世帯に一人配置する地域ファミリー・ドクターは、調子の良し悪し関係なく日頃から住民に接しているため、病気になる前に予防的施術をはじめることが多々ありまして、もし発病しても当人や当人の家族をよく知る(つまり、遺伝的にも理解する)ファミリー・ドクターが病気の8割を治療しています。
また、頻繁に往診し、食事指導からモチベーション・ケア、時には家族関係の相談までこなす独自の地域予防医療によって、病気の発生と一人当たりの年間医療費を抑えることに成功しているのです。
そして、地域ファミリー・ドクターの手では治せない患者は、多大な投資をおこなったバイオテクノロジー施設や高度医療技術で治療します。
一方、経済制裁と世界的なインフレにより、外国産の抗生物質はなかなか手に入りません。
医療先進国と言われるキューバ。
実態は、予防医療先進国であり、一度、病気まで進んでしまうと、場合によっては治療が難しくなってしまいます。
つまり、予防こそが生死を分ける分水嶺。
日本で言うところの「予防医療」とは、大きな違いを感じる今週です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.570 2022年5月20日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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