「大方そうなるだろう」と見られていたUber(ウーバー)社の件、労働者性が認められて無事に東京都労働委員会から団交命令が出ました。
両側が広報合戦をして情報戦を繰り広げていたものの、レジームど真ん中の労働委員会は外野のノイズを気にすることなく普通に団交命令を出していて、ですよねー感が強くあります。
もちろん、Uber社単体の問題ではなく、類似の請負の対象となる個人事業主も事実上の労働者性を持つ雇用関係にあるという裁定となりますので、今後は業務中の怪我などへの補償だけでなく、厳密な労働時間から逆算した労働者管理業務にも事業者が責任を負う形となり、この手のクラウドソーシング的なプラットフォーム事業者にも雇用主としての責任が生まれることになります。
こうなると、オンライン上で完結する(していたはずの)委託業務もプラットフォーム事業者が斡旋して後は勝手にどうぞとはならない話となります。なぜなら、今回の裁定でも議論になっていた雇用主とは誰だったのかという問題に、斡旋側プラットフォーム事業者の責任と労働者性を認めている限り、欧州やアメリカ同様に個別業界の事情も斟酌の上で働く国民を守る法制度が追ってできてくると見られるからです。
簡単に言えば、Uber社や出前館、WOLTなど各社のビジネスモデルで言えば、オンラインで料理の注文を「Uberなどアプリ」でした「利用者」が、その注文した「レストランなど飲食店」から配送してきた「Uber配達員」から料理を受け取るサービスがあるわけですが。
この「Uber配達員」は誰から雇われたのでしょうか。
「Uber」でしょうか。「利用者」でしょうか。「飲食店」でしょうか。
この裁定では、明確に「Uberですよ」となっています。
プラットフォーム側の言い分はこうです。
実質的に受益者は利用者であり、売ったのは飲食店ですが、仲介したプラットフォームが「これは利用者と飲食店との間での商行為を斡旋し、飲食店への注文と配送するUber配達員を手配したのはあくまで業務の紹介であって、個人事業主として、選択可能な料理配送を請け負ったUber配達員との間には雇用関係はなく、労働者性はない、と。
ではここで、自転車に乗ったUber配達員がコケたり自動車事故を起こしたりしたとき、この補償は誰が負うことになるのでしょうか。今回の団交命令では明確にはされませんでしたが、まず、駄目になった料理から見ていきます。これは購入を希望した「利用者」が泣いて諦めることになるのか、せっかく作った料理を駄目にされてしまった「飲食店」が無料でもう一回作ることになるのでしょうか。実際には、事故で配達が不能になった場合には、取引が行われなかたっということで取引がキャンセルになり、プラットフォーム事業者側が返金対応する可能性が明記されています。つまり、取引を仲介したプラットフォーム事業者は取引の完遂に対して一定の責務を負っていることになります。
また、ここでプラットフォーム事業者が利用規約を以下のように変更しています。
Uber Eatsでは、配送サービスの提供プロセスをよりシンプルなものとすべく、2022年8月1日(以下「本変更日」といいます。)に、Uber Eats プラットフォームを介して配送依頼を受け取る配達パートナーを通じての配達に関して、ビジネスモデルの変更および利用規約を改定いたします。
【ビジネスモデル変更前】
加盟店がユーザーの皆様に対し配達サービスを提供
【ビジネスモデル変更後】
Uberがユーザーの皆様に対し配達サービスを提供ユーザーの皆様がサービスを利用するにあたって、今回の新しいビジネスモデルへの変更に伴うUber Eats アプリの仕様や料金体系に関する変更点はございません。
はい、お気づきの通り、全然ちがいますね。いままでは「加盟店(飲食店)」が「ユーザー(利用者)」に対し配達サービスを提供する、その仲介の窓口をやっているにすぎませんよという立場であったUber社が、8月1日から(正確には6月25日から)突然「ワイらのサービスです」と重大な規約変更をしているわけです。
これは、5月1日に配達員に対する報酬の減額と、報酬規程のブラックボックス化の制度変更があったことが背景にあります。まあ要するに儲からないので需要喚起のためにも配達員への仕組みをいじっています。さらには転倒事故を起こして負傷した配達員に対し、Uberがアカウントの一時停止を行い永久停止の警告やアカウントの停止を行うなどしたり、配達リクエストを拒否していると次のリクエストが入りにくくなったり、配送条件の悪いリクエストがきたりなどの「干される問題」が勃発し問題になっていたからです。
まあやりたい放題なんですが、競争が激しいレッドオーシャンの業界一番手が地位死守のために仕組みをいじるのもあり得ることで、ただそれらが請け負う個人事業主に対して一方的な不利変更であるという独禁法上の問題も本来はあります。要は、生来的に独占禁止法で怒られるか労働者性を認めて配達員さんの労働組合と団交するかというどっちも負けの二択になる恐れはあったのではないかと思います。ここでUber側に不当労働行為が認められて、救済命令が出て団交に応じる義務が発生しますが、そこから不服の申し立てがUber社からあり、さらに中央労働委員会での再審査手続きとなります。これを経て、ようやく裁判要件が整うことになると地裁提訴に、そして高裁、最高裁と、事実上の「5審制」となって、すでに最高裁でUber「的な」業態のギグワーカーに対する労働者性を認める判定を出しているイギリスと同等になるには3年コースじゃないかと想像しています。
これは、フリーランスの働き方改革や仕事への補償という観点からも、安倍晋三さん、菅義偉さん、岸田文雄さんとずっと続いてきた労働改革の一里塚なところがあるので、政治的に決着をさせ、労働法の一部を改訂するなどしてさっさと門戸を開く一択じゃないのかという気持ちもあります。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.387 Uber社の件で団交命令が出た件に触れつつ、カード決済周りで起きつつある不都合や地方自治が抱える深刻な事情などを考察する回
2022年10月31日発行号 目次
【0. 最終案内】経営情報グループ『漆黒と灯火』会員募集、まもなく終了します
【1. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【2. インシデント1】レジームの反撃を受けるベンチャー界隈と生産性の今後
【3. インシデント2】DMM(Fanza)に続きPixivも業火に包まれるカード決済による表現規制の煉獄
【4. インシデント3】「落選議員」への補償問題と地方自治侵食の問題点(前編)
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