高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

飲食業はその国の社会の縮図

高城未来研究所【Future Report】Vol.608(2月10日)より

今週は、東京にいます。

久しぶりに東京の街を歩くと、飲食店が多いのに改めて驚きます。
その数およそ15万軒ほどあり、第二位であるソウルのおよそ2倍、美食の街パリの3倍、ロサンゼルスの5倍、ニューヨークの6倍、ロンドンの8倍、香港の12倍あり、人口比でみても世界の主要都市と比べてもダントツの店舗数です。

このように日本の飲食店が多い理由は、チェーン店にあります。

今週宿泊している都心のホテルから徒歩10分圏内に、ガストやサイゼリアなどのファミレス、すき家や吉野家、松屋、なか卯などの牛丼店、はま寿司やくら寿司、丸亀製麺、はなまるうどん、CoCo壱番屋、いきなりステーキ!、鎌倉パスタ、やよい軒、大戸屋、そして餃子の王将や幸楽苑などのほか、ファストフードと呼ばれるマクドナルドやモスバーガー、銀だこ、鳥貴族や魚民などの居酒屋などのチェーン店が軒をひしめきあって出店しています。

いったい、なぜ日本はこれほど飲食店過剰かつ、チェーン店が多いのでしょうか?

まず、飲食店過剰な背景には、日本における営業許可の取りやすさがあります。
地区の保健所によって多少の違いはあるものの、建築設計上で満たすべき要件は実質的に決まっていることから、誰でも取得が容易です。
店舗ごとに食品衛生責任者を置く必要もありますが、これも1日講習を受ければすぐに取得できます。

一方、世界主要都市では、日本ほど容易に飲食店を開業することができません。
米国では飲食店における酒類販売に関する「リカーライセンス」の取得だけでも厳しいルールがあり、欧州では決まったエリアに出店できる数が限定されています。
美食の街として知られるバルセロナでは、ひとつのエリア内で飲食店の営業許可発行数が決まっており、どこかが潰れるか、営業許可ごと買取しなければ新規開業ができません。
さらに、地域における飲食店総数を制限するだけでなく、業種によっても制限をする場合があり、ひとつの基準として火を使うかどうか等、厳格なコントロールが行政によってなされています。
それだけ飲食店を出すにあたって超えるべきハードルが複数ありますので、店舗数も適正なラインに絞られます。
これによって需給バランスが保たれ、価格と人件費が一定のラインで維持されることから過当競争に陥ることはなく、あわせて皺寄せが従業員の人件費や労働環境に押しつけられることもありません。

また、日本にチェーン店が多い理由は、駅前の高い家賃と日本独自の商慣習である高額な保証金を支払えるのが、メガチェーンやナショナルチェーンしかないからです。
こちらは、支払いの面から大家サイドもメガチェーンへのリーシングを望みます。
メガチェーンは仕入れの効率化やセントラルキッチンで作った部材を店先で単に温め直して再構築することがほとんどですので、低価格を提供でき、オペレーション管理も徹底します。

結果、個人経営の店は淘汰され、日本全国どこでも均質かつ人の味覚を騙すような店ばかりになってしまったのが現在の状況です。
牛肉100%と謳っても、その実、味付けは牛脂(とショートニング)で行うようなことが大半です。
その上、店舗数は増えているのに、外食産業の市場規模は過去25年伸びていません。

こうして過剰な店舗供給とメガチェーンによって引き下げられたプライスラインが、低利益率、低賃金、長時間労働を常態化し、年々悪化する食材によりカスタマーは健康を害し、物件を所有する不動産業者だけが得する仕組みが出来上がりました。

およそ10年前に策定された国家戦略特区制度といった大規模再開発に関する法令改正などの後押しによって、東京23区の大規模オフィスビルの供給量は急増しており、現在、都心部へのオフィス集積が進んでいます。
ここに集う人たちの「ハラ」を満たす必要があるため、安価なメガチェーンやナショナルチェーンばかり駅前に林立しているのが、日本の飲食業の現在地です。

先日まで滞在していたオーストラリアでは、市民がインデペンデントなカフェを支持し続け、ついにスターバックスを締め出しました。
そして、休日にカフェで働く人の時給は、日本円にして5000円を超えています。
一方、日本ではスターバックス、ドトール、コメダ珈琲、タリーズなどのコーヒーチェーンは1万店舗を超える規模まで成長し、ますます寡占化(大企業化)が進みます。

「パンとサーカス」ならぬ、「チェーン店とスマートフォン」。

飲食業はその国の社会の縮図なんだろうな、と考える今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.608 2月10日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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