※高城未来研究所【Future Report】Vol.610(2月24日)より
(photo: Raj 2007. coimbatore CC BY 2.0)
今週は、インドのコインバトール(コーヤンブットゥール)にいます。
インド南部のタミル・ナードゥ州都チェンナイに次ぐ第2の都市コインバトールは、かつては「南インドのマンチェスター」という異名を持つほど、周辺の綿花畑に支えられた一大繊維産業集積地でしたが、その後、インドの自動車部品製造の中心地へと大きくシフト。
インドを代表する自動車メーカーであるタタ・モーターズは、現在、自動車部品の30%をこの地から調達しています。
また、ものづくり都市からの脱却のため、国内外のIT企業を数多く誘致し、未来へ向けてソフトウェア産業やITアウトソーシング産業の街へと急速に脱皮しつつあります。
州の名称タミル・ナードゥとは、「タミル人の国」やインド先住民「ドラヴィダ人の地」の意味を持ち、彼らドラヴィダ人が世界四大文明のひとつであるインダス文明を作り上げましたが、森林の乱伐等で発生した気候変動により文明が崩壊。
この時、イラン高原から移住してきたアーリア人に押し出され、それ以降、古くからの文化を保持するドラヴィダ民族は南インドで定住するようになりました。
こうしてインドに大きな南北間隔差が生まれ、今日まで続きます。
イラン北部からインドに移住してきたアーリア人は、背が高く、色が白いのが特徴です。祖先の霊魂を崇拝する原始宗教を発展させバラモン教を形成してカースト制度を作り、ヒンディーを話し支配者層に収まります。
一方、人類がアフリカを出てインドに居住した先住民族ドラヴィダ人は、肌の色が黒く、背が低くて手足が長く、縮毛なのが特徴です。
タミル語を話し、カラフルで極彩色のヒンドゥー寺院はドラヴィダ文化の象徴の1つですが、アーリア人流入後は被支配者層となりました。
この両者は数千年の間に幾度となく争い、それを避けるためにドラヴィダ人は海外へと脱出します。
そのひとりが、4世紀の熊野に流れ着いた行者「裸形上人」です。
熊野三山にある青岸渡寺や補陀落山寺は、ドラヴィダ人「裸形上人」によって開山した寺として有名ですが、「裸形上人」は那智大滝において修行を積み、瀧壷で八寸の観音菩薩を感得。これがのちの修験道となります。
そしてこの時、「裸形上人」がインド式「行」と共に日本へもたらしたものが、アーユルヴェーダだったのです。
世界最古の医療アーユルヴェーダは、5000年前にヒマラヤで生まれ、北部の支配的なアーリア人を避け、聖仙ダンヴァリや聖仙アガスティアが秘伝を持って南下し、南インドのタミル・ナードゥでシッダ医学と習合して昇華しました。
アーユルヴェーダは、人間の体質を三つの性質(ドーシャ)=カッパ(水)、ヴァータ(風)、ピッタ(火)とその組み合わせにわけ、五行と共にこれを整えることで、その人の病を治しました。
今日も主にドラヴィダ語は南インドとスリランカで話されていることから、アーユルヴェーダもこのふたつの地域で根付き発展します。
「超訳古事記」などで知られる作家鎌田東二は、ドラヴィダ人の行者が海外へ転出し、知見が日本の熊野に伝えられた歴史を鑑み、「修験道とアーユルヴェーダを同じもの」と話します。
古代に実在した役小角(役行者)を開祖とし、「裸形上人」がもたらした山岳修行をベースに、仏教や神祇信仰、陰陽道が習合して形成された修験道。
特定の霊場寺社に拠点をもちつつも、各地の霊山を渡り歩く「旅する修行者」たちは、訪れた村々で病に苦しむ人たちも助けました。
コインバトールの街から数時間離れ、どこかで見たような大自然豊かなインドの険しい山間部を走ると、熊野同様、かつてはここも行者の修行地だったのかもしれないな、と思う今週です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.610 2月24日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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