やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

タワマン税制の終わりと俺たちの税務のこれから


 相続税での評価額と実勢価格の乖離に目をつけた相続税対策が、無事にふさがれそうでざわざわしております。

マンション相続、実勢価格6割に課税 国税庁が24年から

 「タワマン節税」関連訴訟で、地裁高裁に続いて最高裁でもNGが出ておったので、これ幸いととっとと実勢価格ベースでの課税にシフトするのもまあ当然と言えます。

 通常、資産を持つ高齢者が無くなられた際に相続税の申告を行うにあたって、保有する土地(宅地)については路線価を用いて評価額を算定します。まずは、これが大前提です。他方、集合住宅(マンション)の場合は、この路線価については集合住宅の建っている敷地全体の評価額を算定したうえで、一般的に区分所有である持ち主の所有権割合で評価額を按分して各戸の土地評価額を算出することになります。

 タワーマンションの場合は特にこの計算式による節税効果が高いとされ、建築にあたり許される容積率の上限まで活用することを大前提としているのがタワマンです。したがって、敷地あたりに多くの住戸が設定されることで土地の路線価から多くの住戸があることから所有する区分の割合が低くなるために相続の対象となる評価額が抑えられることが前提です。また、特に東京や一部神奈川、大阪など、タワマン人気の高い都市部では資産価値が高く見積もられ新築も中古も市場では高額で売買されています。

 特に、タワマンが建つような立地は概ね都市部の中心か、アクセスのよい駅近である場所が多く、一方でタワマンの管理費は将来に向かって高くなっていく形であるため、サッと買って頃合いを見てサッと売るのが常道になっているのも事実です。

 しかし、資産価値があるはずのタワマンは相続税を計算する上での評価額では、先にも書きました通り建蔽いっぱいに高層階まで建設することから、一般に室数が多いため区分割合に応じた按分計算後の評価額はかなり低くなります。さらに、マンション一般で言えば分譲賃貸で運用する場合は評価減額要素があり、借家権割合や貸家建付地割合を含めることなどから、時価に対して相続税評価額が大幅に下がることになります。

 これに対して、札幌南税務署が財産評価基本通達第6項(後述)を適用し、タワマンを相続した人物側が提出した物件評価額を否認し、伝家の宝刀的な手段で実勢と評価額の違いを指摘して相続税課税したことが背景にあるのです。

 最高裁がタワマン税制について一蹴する下級審判決を支持した背景には、やはりそのタワマン購入の意図が相続税節税を前提としていたことの認定がまずあったと言えます。亡くなった資産家や相続した人たちが、タワマン保有に関して当初から発生を予見された相続税の租税回避を目的と認定されたのは、国税当局側が提出した、マンション購入で信託銀行が作成した行内稟議書において、その貸付理由として「相続対策として(タワマンの)不動産購入を計画」という記載があったことによります。実際複数のタワマンを購入するにあたり借入を起こしてなお相続税を圧縮し得る余地があったのですから、裁判所側も一般論としての課税における平等原則から逸脱しているという指摘が出るのもむべなるかなといったところです。

 また、亡くなった資産家が最初に購入したマンションの借入をした時点で90歳であり、この相続課税価格6億円を2,800万円まで減額させ相続税の課税額そのものが0円となったことや、購入した5億5,000万円の別のマンションを資産家が亡くなった後、一年もしないうちに5億1,500万円で売却したことも踏まえて考えれば、伝家の宝刀的な例外規定である国税当局の総則6項を適用するに相応しい事案となってしまったことは挙げられると思います。この案件は割と課税関係の勉強会に行くと所与の知識として「知っとけ」というレベルのものになっている一方、こんな露骨なことをやってくれた結果、国税庁がブチ切れてタワマン税制による相続税脱税の穴をふさぐ決定をしましたというのは大事なところです。

 たぶんですが、この方針が24年からと言ってますけど最高裁で勝ってますから、場合によってはそれ以外のタワマン購入層も全部巻き込まれて無事実勢価格評価額での取扱になってしまうものと見受けられます。生憎身の回りで節税目的で借入を起こしタワマン購入した高齢世帯が誰一人亡くなっていないため、税務署から認められなくて右往左往という事例は耳にしておりませんが、タワマンで節税はかなり一般化されてきていたため否認が相次ぐような事態になると飯が旨かったりするのでしょうか。

 もっとも、我が山本家もいろいろございまして、なんだそういう節税効果が無くなるんだったらわざわざ管理費の高い物件を資産価格維持できるからといって無理にもっとく必要もねえじゃんかという気もしなくもありません。もちろん、タワマンの資産価値の高さや、賃貸での手離れの良さ、高価格帯がゆえの賃借人の質の良さみたいなところは確かにあるのですが、昨今のタワマン価格の高騰からして家賃の伸びはそう多くはなく、投資収益を純粋に追うのであれば普通の築浅マンションのほうが収益率が高くなったりするんじゃないかとも思っています。

 蛇足ですが、タワマンが長年経つと住民が限界集落化して派手に廃墟になるんじゃないかという話はよく出ていて、正直日本最古のタワマンに住まう友人もそれに似た状況になっていると良く嘆いてくるのであまり他人事とは言えません。賃貸に出して取れる家賃の4割がマンション管理費に消えるとか、古いタワマン内の補修で年寄りがバリアフリー工事を要求して階数が多いもんだからとんでもない費用を見積もられたとか、いろんな逸話を聞きます。タワマンなのに共用部分でそんな転ぶような段差があるの?

 まあ築浅で綺麗なうちにサッと住んでいいところで出るのがいいんじゃないか、投資収益として考えるのも築浅なうちに、とは思いますけどね、ええ。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.410 穴が塞がれるタワマン税制についてあれこれ語りつつ、プラットフォーム事業者と報道メディアの軋轢やこれからのライフラインどうするみたいなことを考える回
2023年7月3日発行号 目次
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【0-1. 序文】タワマン税制の終わりと俺たちの税務のこれから
【0-2. 迷子問答】代表質問
【1. インシデント1】プラットフォーム事業者とニュース配信を巡る攻防の激化
【2. インシデント2】2024年問題対策としての自動運転トラックという難題
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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