やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

パー券不記載問題、本当にこのまま終わるのか問題


 朝日新聞の独走と共に大騒ぎになったパー券問題ですが、結局のところ肝心の未記載のところでしか事件化することなく、なぜかキックバックされていたおカネは各事務所の引き出しの中に全額現金でしまわれていたので使途が問題になることもないまま修正申告で済まされるレベルの話ということでゲームセットになろうとしております。

 もちろん、池田佳孝さんや谷川弥一さん大野泰正さんと、別件で逮捕された柿沢未途さんを加えた4名が、いまのところ3月15日リミットの補選対象となる運びとなりましたが、4議席の改選で済む程度の事件の割には自民党支持率はずいぶん落ちてしまって(調査によっては下野直前の政党支持率を下回ったともいう)、これはいったいどうしたものかと思うところはございます。

 その出口として、岸田文雄さんが自分のとこの宏池会でも会計責任者が3,000万円だかの未記載があって書類送検されるのどうのという話が出てからブチ切れて宏池会解散まで踏み込んでしまい、煽りを喰う形で志帥会二階派や清和研安倍派まで派閥解消の流れになってしまいました。どうも本当に岸田文雄さんは茂木敏充さんや麻生太郎さんに話を通すことなく宏池会解散を決断していたようで、会見で岸田さんの両脇に座っていた茂木さん麻生さんがブチ切れフェイスで岸田さんのコメントに拍手することもなく鎮座していたのが印象的です。そりゃ怒りますわね。

 かつても政治資金と派閥の問題が取り沙汰されるたびに派閥解消・解散の話は出続けてきたのもあって、国民向けパフォーマンスとして派閥解消で政治不信からの脱却や! という猿芝居だよというのは指摘が多々あるところなんですが、岸田文雄さん的には「降ろせるものなら降ろしてみろ」的な無敵の人状態で繰り出すブチ切れ芸でしたから、正直党本部内ももの凄く雰囲気が悪いわけです。もちろん、その原因はトップの暴走と党組織は素直に捉えているからなんでしょうが、政治とカネの話で言うならば今回の派閥が単にカネの面だけでなく重要な役職における人事と党内バランスを取る仕組みもまた失われかねないという点において、重要閣僚を経て上を目指す議員だけでなく中堅から下の三役でもいいからどこか行政ポストをと願う人たちは次に自分が指名される順番がいつになるのか皆目見当つかなくなるリスクのほうが大きくなるのもあります。

 例えば、平成研はそのまま解散せず残るとして、船田元さんは別格として当選10回の茂木敏充さんが幹事長、8回の小渕優子さんが選対委員長、木原稔さんが防衛大臣に新藤義孝さんが経済再生担当大臣におのおの指名されています。なぜか産経に「面目を保った」とか書かれてしまうわけですが、実際には待機組に回る中では加藤勝信さんや古川禎久さん、橋本岳さんなどもおられ、総理大臣に手がかかる総裁選に出てもおかしくない人材がごちゃっと固まって同じハコに入っているのもまた特徴です。ここから、じゃあ次の総裁選に派閥として誰を担いでどうするのかという数字を読むときに派閥単位の結束がある程度以上あると読みやすくなるため、人事の準備がしやすいというのが大きいのかなあとも思います。

面目保った安倍・麻生・茂木派 内閣改造は派閥のバランス重視

 また、党人派的な人材は、どうしても入閣が遅れたり、重要閣僚よりも党務優先ということになると、派閥で囲ってもらえないとなかなか資金的にも票的にも厳しいことはあり得ます。往々にしてそれらの党人派は特定の政策通(例えば税務とか情通とか社保とか特定分野に強い)に育っていきますから、選挙に弱くても党として政権担当能力を維持するためにはこういう人には生き残ってもらわないといけません。そういう人材の養成、維持のために派閥が使われてきた面もありますが、今回のように、カネ、人事両面から派閥政治が改めて否定され、これから解体するんだよみたいな刷新の話になるのだとすると、どういう人の束で党内を〆ていくのかというリアル党運営のところでかなり知恵を絞らないといけなくなります。

 政治家にとって大事な励ます会ひとつとっても、地方選出の議員は業界団体丸抱えでもない限り東京でパーティーの仕込みひとつできなくなる恐れはあり(それでも頑張って開催するのでしょうが)、特に地方で公募で出馬して議員になった人や地元地方議員からの叩き上げの議員さんなどからは早くも頭を抱えたような連絡を頂戴したりもします。ボヤかれても「ご同情申し上げます」としか言えないわけですよ、こうなっちゃった以上。

 そうなると、表向きは「二度あることは三度あった派閥政治からの脱却」であったとしても、小選挙区制となり、政党交付金での党務が大前提となっている本件においては、刷新をさせるためだけでなく、具体的な党運営をどうするのというところまで手を入れて何かをしないといけなくなるという点で、いままでとはまったく違った風景となり、やらなければならないことが複数出たのだということになります。

 それは抜きとしても、不起訴に終わった残りの面々のうち、萩生田光一さんや橋本聖子さん、丸川珠代さんなど、派閥として帳簿に付けていた金額と受け取ったとされる金額とに開きのある政治家や、そもそも派閥のパー券をもっとたくさん売っていたのに自分の事務所の売上として派閥に入金していなかった議員などが、そのまま修正申告されるのでセーフとなったら何のための政治資金規正法なのかという話にはなるんじゃないかと思います。これはもう検察庁に黄色いペンキがぶちまけられるだけでなく、検察審査会にも持ち込まれて面倒なことになりかねないので、良い線引き、良い着地があるといいなというのが正直なところです。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.429 パー券不記載問題をあれこれ考えつつ、能登半島地震災害復興にまつわる難題や文春VS吉本興業、パルワールドの件に触れる回
2024年1月24日発行号 目次
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【0. 序文】パー券不記載問題、本当にこのまま終わるのか問題
【1. インシデント1】災害復興関連費1兆円超という能登半島地震を巡る遠き落日
【2. インシデント2】いろいろあるが文春VS吉本興業の話をする
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】大紛糾『パルワールド』の生成AIパクリ問題がいきなり日本本土上陸の難

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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