やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

外資系企業の「やり得」を止められるルール作りこそがAI規制の本丸


 日本のベンチャー界隈でWeb 3.0だNFTだと盛り上がっていた詐欺師が生成AI方面で大人しいのは、ブロックチェーンで革命だという駄法螺を言うほど生成AIを含めた人工知能界隈はちゃんと勉強していないと何を言えるのかすら判然としないからだと思うんですよ。

 最近では、こっち方面の詐欺で頑張る人たちが脱税で逮捕歴のあるYouTuberでせっせとゴミを売りつける作業をしていますが、生成AI方面ではこういう「特に技術も企画もあるわけではない人たちが入り込めない障壁がある」のでうまく棲み分けができているんじゃないかとすら思います。

 他方で、織田浩一さんが記事で書いておられましたが、アメリカでも人工知能をリードするビッグテック各社に対する独占禁止当局の動きが厳格化の方向にシフトしているのは事実のようです。EUのAI規制も面倒くさい感じで走っており、しかし重要な論点が山盛りであるためこのままで進むんでしょう。

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~寛容さから厳格化へ舵を切る、今後のAI開発も視野に~

 一方、我が国と言えば、諸国に先駆けてOpenAIのアルトマンさんを(マイクロソフトのお力も借りつつ)自民党や官邸に呼び話を聞きつつ人工知能政策の方向性を見定めるにあたりそれなりに優位な位置に立とうと頑張っておりました。誰か特定の人が司令塔になって方針を決めているというよりは、なんとなくの空気でマイクロソフトやアップルならいくつかあるビッグテックの中でも日本に親和性がありそうだという諒解のもと、いろんな技術戦略が決まって言っているように見えるのがザ日本のICT政策だなあと感じないわけでもありません。

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 置石として、イギリスで開催されていたAI安全サミットでの議論の方向性と、並行してインターネットガナバンスフォーラム(IGF)で指摘された論点も踏まえて、日本は米欧とネット界隈の意見を踏まえながら、どちらかというと事業者寄りの緩い規制で生成AIやAGIみたいなものを対応していこうという路線にいくしかないのでしょう。

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 広島AIプロセスで一定の方向性を示したものの、じゃあどうやってという各論は先進国だけでの取り組みでは決まらず、IGF同様にワンワールド的に政策を固めていくのだと理想は高く掲げながらも結局はグローバルサウスへのデータ移転と緩い規制を作らせてレッセフォールが発生するのはゲノム開発やサイバーセキュリティの事案でも起きていることですから、日本がルール作りをリードするにあたって、この「日本のやるべきこと;国益的なものや、日本が持っている資質・能力」と「先進国の中でのルール協調;米欧、G20当たりを視野に入れた安全性と実効性のあるルール作り」、そして「逸脱するであろうグローバルサウスへの監視や運用状況がある程度見える国際的な監視体制作りとそれへの各国の理解と協力を促す推進」といったあたりの問題になるのでしょうが、これらは非パリクラブの中国の逸脱をどう牽制するかという全然別軸の話が出てきてしまいます。

 変な話、AIルール作りはもちろん各国が協調する前提なんですけど、最終的には一番の利益を得るのは逸脱した国家だという結論にならないようにしないといけません。グローバルサウスの債務問題にしてもインターネットガバナンスにしても気候変動や食糧問題にしても、生成AIの規制問題とは並行した地続きの課題なのであって、各国が自国権益と国民の情報保護を考えるときに近視眼的対応に終始すると、やはり先行するアメリカとこれを危険視する欧州、そしてルールから逸脱して利益を得ようとする中国という基本的な構造の中で、我が国はどのようなAIルールを提示して理解を求めていき採用に漕ぎ着けるのかというグランドデザインを考えていかなければなりません。

 各国のAI規制動向を見ながらパッシブに融和策をねじ込んでいくあり方で日本は今回も対応するという方法にならざるを得ないのではないかと思います。そして、それで日本は他国と比して日本の国益や日本人・日本企業の情報を守り、イノベーションが起こせるレベルでの自由度を確保するという線引きを決めるにはかなりセンスが問われるところです。

 そして、冒頭の織田さんの記事にもある通り、最近は失望も広がっているとはいえリナ・カーンさんのようなある程度強権的な米独占禁止当局の振る舞いを可能としているのは相応に強い権限がFTCに認められていて、ある程度、ロジカルに話を議会で通すことができればOSとブラウザを一体で売る抱き合わせですら懲罰的罰金を科すことのできる仕組みの強さがそこにあることは理解しておく必要があります。

 我が国には、このようなプラットフォーム規制を実現できる強い独禁法も懲罰的な行政指導や犯罪収益没収も欧州デジタルサービス法32条39条のような枠組みもありませんので、適切なAI規制のルールを策定する前捌きのところからやらないといけないという残念な面があります。もちろん、各三条委員会が立ち入り検査権を持っているとしても、どう立入検査をしたら意味のある何かが出るのか水先案内が無いと分からない問題とか、そもそも鯖が韓国や中国にあってどうにもなりませんでした問題とかがあると、単純に法的に緩いし罰金はないし制裁も喰らわないので日本で外資系企業のほうが「やり得」になってしまう状況をどうにかしないといけないぞというのが本丸だと思うんですが。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.424 日本のAI規制はどうあるべきかを思案しつつ、チューナーレステレビ人気がもたらすテレビ業界変革やOpenAI CEO解任騒ぎについて語る回
2023年11月28日発行号 目次
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【0. 序文】外資系企業の「やり得」を止められるルール作りこそがAI規制の本丸
【1. インシデント1】各社参入「安価なチューナーレステレビ」がもたらすテレビ業界変革
【2. インシデント2】OpenAIのお家騒動は一体何だったのか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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