やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「もしトラ」の現実味と本当にこれどうすんの問題


 アメリカの共和党指名争い、全米各州での予備選挙や党員集会が集中する「スーパーチューズデー」は3月5日になります。ここでトランプさんは競合の元国連大使ヘイリーさんを降ろせるかどうかが注目されるわけですが、裏を返すとヘイリーさんはここまで粘ってきたもののほとんど勝ち目のない3月5日を迎えてどう次に繋がる敗北宣言をするかという雰囲気の論調にならざるを得ません。

 トランプさんとしても、うっかり共和党の指名争いで時間とカネを使うよりは、いま訴追されている裁判や本格的な大統領選挙に向けて集中したいという考えがありありと見えている一方、第二次トランプホワイトハウスに向けて先物買い的なコンタクトが相次いでいるのもまた事実です。

 トランプ外交においてはウクライナ侵略問題を直接左右するNATO条約5条の問題から台湾関係法、アメリカと日本、韓国との防衛関係でもかなり込み入った問題を引き起こす可能性が高い一方、アメリカ政治の源流に関わる事件になっているイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区侵攻についてもいろいろとアレな決断を下す恐れがあるのではないかと警戒をされています。

 尾を引いているのは最後っ屁的に出した中東和平案で思いっきりイスラエル寄りの裁定をしたうえで、その後の民主党バイデン政権の中東政策を批判し、その割にトランプさん自身はその後ガザ問題への決定的な言及は避けています。

トランプ氏、中東和平案を発表 パレスチナは反発

 他方で、トランプ政権が成立した場合はウクライナ支援については既定路線として減らしていく(場合によっては介入自体を停止して支援を取りやめる)言及をしており、結果的に、力による現状変更を進めるロシアに利する判断をアメリカ大統領としてしてしまう恐れもあるわけですよ。

 むしろ、アメリカのいまの世論調査を見ていてやべーなと思うのは、もちろん国民の断絶で西海岸など都市部とテキサスなどラストベルトも含めたレッドステートとの見解の違いがどんどん広がっていることもさることながら、トランプさんが適当に過激なことを言うたびに、アメリカ国民が冷めたりたしなめたりするどころか、むしろ熱狂してトランプ支持率が上がるという、おいそれはって感じの状況になっているのも気になるのです。

 さらには、西海岸で民主党の牙城であった都市部においても特に、地域政策の失敗から貧困や不法移民に対する風当たりが強まり、ついでに一定規模以下の窃盗などの犯罪は収監しない方針から都市活動がマヒし始めているうえ、インフレと好景気で不動産価格も家賃もアホほど上昇して年収10万ドル程度では都市部で暮らせないほど訳の分からないことになっているのもまた特筆されます。

 要は、アメリカはなかなか強い景気に支えられて盤石な状況であるにもかかわらず、現実のアメリカ国民の生活はあんまりうまくいっておらず、オピオイド汚染も含めて考えれば内政面で相当にヤバイだろうという状況のまま分断が進んでいっていることに懸念を感じるわけであります。それでも経済成長して世界中の富がまだまだ集まっているのだからいいじゃないかというのもありますが、そうであるからこそ、いまのアメリカ政治の過激化も含めた「もしトラ」に深い憂慮と警戒感を同盟国の国民として健全に持っておくことは必要じゃないかと思うのです。

 それでも一部予想では共和党トランプさんは大統領選本選でバイデンさんか、バイデンさんの後継候補には負けるのではないかという観測もあります。正直、その分析の妥当性はよく分かりませんが(実際、トランプさんが当選した大統領選でもトランプさんの当選率は8%程度と予測されてきた)、台風が来るぞ的に備えておいたほうがいいんじゃないかなあというのは正論だと捉えております。

 そして、そのころには我が国の総理も岸田文雄さんではない可能性があるのです。不安要素しかありませんが、次期総理が外相に岸田文雄さんを入閣させたりしませんかね…。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.434 次期米大統領選がもたらす不安をあれこれ案じながら、セキュリティクリアランス法案の課題や情報銀行事業低迷などの話題に触れる回
2024年2月29日発行号 目次
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【0. 序文】「もしトラ」の現実味と本当にこれどうすんの問題
【1. インシデント1】成立したセキュリティクリアランス法案の波高し
【2. インシデント2】情報銀行ってまだやっていたんですねという話
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】東京第15区衆院補選、俺たちの岸田文雄と令和日本政治の命運が江東区民に委ねられる

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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