やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

皇室典範のような面倒くさいところに国連の人権屋ぽいのが突撃してきた話


 大騒ぎってほどでもないけど、林芳正師匠まで出てきてワイコラやっていたので面白くて見ておりました。

政府 皇室典範改正勧告の国連委員会に異例の対応

 私の立場で言いますと、国連OHCHR(国連人権高等弁務官)と女子差別撤廃委員会(CEDAW)に関しては、日本が条約に留保なく批准した2003年の時点でボタンの掛け違いがあるけど、何余計なことを国連が勧告出してくれてんねんという風に思います。

 ネトウヨぽい話も出てますが、葛城奈海さんがかつて国連で喝破された内容は私もまあそうかなと思います。

「ローマ教皇やダライ・ラマも男性」と国連で反論 葛城奈海氏、日本の皇位継承への批判に

 もしも国連が日本の施政として人権の問題を言うのであれば、それこそ女系天皇の道筋の話をする前に憲法で定められた天皇家自体の人権問題を先に言わないといけないと思いますし、立憲君主制への最大の難癖である王統や祭祀に関する考え方(その点で言えば、広く見てイスラム教圏もそうですが)は西欧的な普遍的価値観からしてどうなのよという話にもなります。

象徴天皇制に関する基礎的資料

 ああ、この辺は34年前の大学での憲法Ⅰを思い出すわけですが…。

 で、官邸だと俺たちの長島昭久師匠が拳振り上げてワイコラやっとったようですが、私は長島さんの考えに賛同します。ここでは、CEDAWへの任意の拠出を削るよというポーズをやり、実際にはそこの予算は使われていないのでいわば素振りなわけですけれども、一連の条約から脱退しないまでも、批准内容については日本国の成り立ちと制度からして受け入れられない面も大きいわけですから、いまからでも条約の留保(条約廃棄後に留保を付して同じ条約に再加入する)も含めて対応を考えるべきではないかと思います。

 特に、国際的なレピュテーションが低下することを危惧する話もあるのでしょうが、国際関係の中で言うならば普通に何言ってんだおまえで突っ切っていいと思うんですよ。国民有権者に関わることで勧告が出ているのにぶっちぎったとしたらそれは問題でしょうが、今回は典範の話ですからね。

 そもそも国連は、第二次世界大戦後の世界秩序を維持するための重要な国際機関として設立されました。まあ、マルチラテラルな環境を維持するためにも必要な機関であることは間違いありません。しかしながら、時代は下り現代においてその役割と実効性については疑問が投げかけられています。特に国際紛争における国連決議その他の無意味さだけでなく、人権問題に関する各種委員会の勧告については、時として各国の文化や歴史的背景を無視した、西欧的価値観の押し付けとも取れる内容が散見されます。もちろん、述べた通り国民に関わる問題であれば普遍的価値は大事だとしつつも、統治機構や国の成り立ちに土足で上がってくるようなことは、LGBTや女性の権利を振りかざして文化や政治に闖入する議論の馬鹿馬鹿しさを強く感じるのです。

 日本は国連加盟以来、分担金の支払いを着実に履行し、2024年時点でアメリカ、中国に次ぐ第3位の分担金拠出国となっています。しかし、この多額の分担金に見合う発言力や影響力を日本が得られているかというと、必ずしもそうとは言えません。まあ、敗戦国ですしね。安全保障理事会の常任理事国入りも実現せず、今回のCEDAWの勧告のように、日本の国家制度の根幹に関わる事項にまで介入されるという状況が生じています。

 確かに国連は、紛争予防や人道支援、気候変動対策など、グローバルな課題に対する重要なプラットフォームとしての役割を果たそうと努力をしています。できているかはともかく。しかし、その組織運営の非効率性や意思決定の遅さ、そして時として特定の価値観に偏重した判断を下すという問題点も指摘されています。

 このような状況を踏まえると、日本は国連との関係を冷静にあるべきところへ見直す時期に来ているのではないでしょうか。国連を重要な国際機関として位置づけつつも、分担金の額については再考の余地があります。国益を考えると、カネを払ってるのにムカつく勧告ばかりブチ込んでくる連中は実に気に入らないわけですよ。何してくれちゃってるの。ねえ。

 その点で、例えば、GDPに応じた分担金の算出方式自体の見直しを提案したり、任意拠出金の戦略的な配分を行ったりすることで、より効果的な国際貢献の形を模索することができるでしょう。

 結論として、日本は国連との関係において、これまでの「分担金支払い大国」から「戦略的関与国」へと転換を図るべきです。そのためには、分担金の適正化を図りつつ、より効果的な国際貢献の方法を模索し、必要に応じて国連の運営や意思決定プロセスに対する建設的な批判も行っていく必要があるんじゃないでしょうか。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.466 皇室典範騒ぎから国連との付き合い方をあれこれ考えつつ、数学がすごいという話や中華AIの話に触れる回
2025年1月31日発行号 目次
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【0. 序文】皇室典範のような面倒くさいところに国連の人権屋ぽいのが突撃してきた話
【1. インシデント1】「数学こそが社会で必要な能力の根幹である」という話
【2. インシデント2】生成AI界隈激震の伏兵DeepSeek登場が意味することをぼんやり考える
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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