今回派手にやらかしているナイジェリア政府によるJICA「ホームタウン」事業に関する誤情報発表ですが、どうしてこうなってしまったのでしょう。
もともと総一筋縄ではいかないアフリカ外交における構造的な問題と、SNS時代における国際協力事業の脆弱性を浮き彫りにした事件でした。この問題を多角的に検証し、今後の対策を考える必要があるんじゃねえのと思っているわけです。
最初に書いておきますが、外務省に落ち度があるとか、JICAがやらかしてきた悪事がついにバレたとか、ホームタウンという書き方をしたので誤解を招いたのは日本側に責任があるとか言った話は、本件においてはまったく荒唐無稽と思っています。せいぜいいって「他にやりようがあったろ」とか「もっと早く対処するべきだった」などの話はあるかもしれませんが、問題が勃発したその日にはどないするねんという話にはちゃんとなって対処案を策定したり検討を重ねたり当事者に伝達したりはしていたので、そこまで酷いものではなかったと思っておりますです、はい。
で、ナイジェリア政府の腐敗体質と情報操作の常習性は、今回の問題の根本的な背景となっています。
浅川芳裕さんのnoteによると、同国政府は過去にもUAEビザ解禁に関する虚偽発表を行い、偽のビザ申請サイトを通じて政府高官への利益還流を図った疑惑があるとされています。その後、浅川さんのこの記事には一部間違いや誇張が含まれているという異論もあったようですが、個人的に見聞きする限り、内容についてはほぼ事実なんじゃないかと思うのでこれを真実としたうえで各種対応したほうがいいよなあと思うわけです。
記事でも指摘されている通り、モハメド・イドリス情報・国家指導大臣が推奨した「DV Hub」というオンライン・ビザ申請サイトも、UAE当局から公式に否定される事態となりました。このような前科を考慮すると、今回の「日本特別ビザ」発表も、単なる誤解ではなく、当初から、何らかの意図を持った情報操作とある種の汚職の入り口である可能性が高いといえます。
ティヌブ大統領自身も、国際調査報道機関OCCRPによれば「世界で3番目に腐敗が深刻な指導者」にランクインするほどで、150万ドルの賄賂事件や米国でのヘロイン密輸組織のマネーロンダリング関与など、複数の汚職・スキャンダル疑惑を抱えています。また、同政権は「政府系学校の学費を無料化した」と発表しながら実際には値上げしていたり、「300億ドルの海外直接投資を獲得」と発表しながら実際はわずか3.6億ドルだったりするなど、意図的な偽情報や誇張を常習的に行っています。言い方を変えれば、民主制の皮は被りつつも実際には専制主義的な国家となっていて、アフリカあるあるな統治状況であることは論を俟ちません。そういう諸国を相手に利害関係を構築し、日本の考えや立場を海外に知ってもらい、USAIDの縮小と共に急速に影響力を失っていっているアメリカに代替し中国との外交レースにせめてもの役割を果たそうという日本の状況をよく理解する必要があるのです。
このような体質を持つナイジェリア政府からの情報を、国際メディアが十分な検証なしに拡散したことも問題だったように思います。特にBBCなどの影響力のあるメディアが、ナイジェリア政府の発表をそのまま報道したことで、誤情報が正当性を持って国際的に広まる結果となりました。まあなんつーか、日本政府を信じるのか、ナイジェリア政府の発表をうのみにしたBBC現地報道を信じるのか、という踏み絵みたいになったのは日本にとってはなんだそりゃという話になるわけでして、これもまた、アフリカ外交あるあるとも言える現象で、アフリカ諸国政府の発表に対する国際メディアの検証体制の甘さを露呈しています。
その結果、日本のSNS上では、この誤情報を基に「大量移民の受け入れ」「治安悪化」といった憶測や不安が拡散され、木更津市をはじめとする関係自治体に大量の抗議が寄せられました。いや、ほんと馬鹿なんじゃねえのというか、少しは落ち着いて推移を見守って、ある程度はっきりしてから文句言えよと思うわけなんですが、日本政府が悪いと信じ込んだ馬鹿も大量発生し、よりによってフィフィ氏や岸博幸さんなどの著名人も批判的な発言を行なったことで、問題がさらに拡大しました。いや、さすがにホームタウン計画のお陰で木更津に大量のアフリカ人が移民してくるなんていうアホらしい話を喧伝してんじゃねえよと思うわけですが、これらの批判の多くは、ナイジェリア政府の虚偽発表に基づくものでありながら、JICAの事業そのものへの不信につながってしまいました。
一方で、今回槍玉に挙がってしまったJICAは日本の重要な外交ツールとして機能しており、アフリカ諸国との関係構築において重要な役割を果たしています。今回の「ホームタウン」事業も、これまで交流のあった自治体と国のさらなる国際交流促進を目的とした意義深い取り組みです。しかし、人が行う事業である以上、定期的な効果検証と改善が必要であることはまあ間違いはありません。それって意味あるのってのは、一般的な意味において常に政府事業において問い直されるべきだ、というのはあるでしょう。
なもんで、今回の事件を踏まえた改善策として、まず情報発信の強化が挙げられます。相手国政府による誤った発表に対して、迅速かつ効果的に訂正を行う体制を整備すべきだとは思うんですよね、アホがいっぱい誤解するから。なるだけ即応的に状況を把握して否定するべきことは否定し、デマが拡散するのを防ぎ、信じ込んだ国民の妄動を減らすことは大事じゃないのと思うわけですよ。
27日になって、ようやく問題のホームページが削除になったようです。
でもまあ、遅いわな。大混乱しちゃったでやんすね。
アフリカ諸国との協力においては、相手国の政治的安定性や情報発信の信頼性についても事前評価を行う必要があります。というか、今回はナイジェリア政府が舞台でしたが、言い方は悪いけれども先進国とはまた異なったコミュニケーションが必要だというのは外務省もよく理解していることでしょうし、今回のようなへんなとばっちりを受けて不必要な批判で混乱をきたさないようにするためにも、腐敗や情報操作の傾向が強い国については、より慎重なアプローチが求められるでしょう。
SNS時代においては、一度拡散された誤情報を訂正することは極めて困難です。そのため、予防的な対策がより重要になります。事業開始前の丁寧な説明、関係者との事前調整、そして迅速な情報発信体制の構築により、今回のような混乱を避けることが可能になるはずです。
JICAの国際協力事業は日本の外交政策の重要な柱であり、今回の事件によってその価値が損なわれるべきではありません。しかし、デジタル時代の情報環境に適応し、相手国の政治的特性を十分に考慮した運営体制の構築が急務であることも明らかになりました。今回の経験を活かし、より強固で信頼性の高い国際協力事業の実現に向けた改善を進めていくことが重要ではないかと思います。関係各所、お見舞いも兼ねて電話したりしましたが「なんでこんなことになった」と頭を抱えていたのが印象的でした。気持ちはわかるけど俺たちいままでずっとそういうことの対処をやってきたんですよ、少しは現場の辛さをご理解いただけたのでありましょうか。知らんけど。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.487 JICA「ホームタウン」騒動について語りつつ、テックライトに振り回される日米事情や生成AI依存とメンタルヘルスの問題などを取り上げる回
2025年8月29日発行号 目次
【0. 序文】ナイジェリア政府による誤情報発表とJICA外交政策への影響について
【1. インシデント1】急に「テックライト」シフトを組まないといけなくなってきた日米事情
【2. インシデント2】生成AIとメンタルヘルスの関係がちょっと面倒くさいという話
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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