ロバート・ハリスメールマガジン『運命のダイスを転がせ!』Vol.005より
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作家と酒は切っても切れない関係である
歴史的な観点から見ても、作家という職業は他のどんな職業よりも(ま、ジャズ・ミュージシャンやロックンローラーという強力なライバルもいますけど)、酒と密接な関係を保ってきました。
なぜなのか? 酒はものを書く潤滑油だから。人間の情念や苦悩や心の闇と対峙していると、酒なしではやってられなくなるから。言葉を無から絞り出す作業そのものがきついから。編集者がやたらタダ酒を飲ますから。作家はバーやクラブで人気者だから。酒は物書きの美学だから。そもそも作家になるような人は酒なしではやってられないほど心に傷を負っているから……とまあ、いろいろな理由が挙げられてきたし、個人によってもまちまちだと思います。でも、とにかく、日本でも海外でも、酒好きの作家が多い、というのは事実です。
酒好きの日本の作家と言えば太宰治、檀一雄、開高健、吉行淳之介、野坂昭如、池波正太郎、中島らも、北方謙三、伊集院静、山田詠美さんなど、そうそうたるメンバーが名を連ねています。
檀一雄がポルトガルの港町に暮らしていた時、いつも呑んだくれて食事もまともにとっていないので、漁師たちが心配して釣った魚をおすそ分けしてくれていたそうです。でも、みんながこぞって魚をくれるのでとても食べきれず、余った魚をバルに持って行って酒と物々交換していた、という逸話があります。ここまでいくともう落語ですよね。
海外、特に欧米の酒豪作家を挙げてもかなりすごいリストになります。ネットにあったListVerseというサイトで見つけた「15人の酒好き作家」っていう記事から15位から1位までを順に挙げてみると、こんな面々になります。
15位 ハンター・ S・トンプソン
(自由奔放な “ゴンゾ・ジャーナリズム”の騎手のトンプソンはビールとジンと特にワイルド・ターキーを愛飲していたそうですが、それと同時にドラッグもめちゃくちゃやっていました)。
続いて、
レイモンド・チャンドラー(ウィスキーとギムレットを愛飲)
ジョン・チーヴァー
O・ヘンリー
テネシー・ウィリアムズ(もっぱらバーボン)
ディラン・トーマス(ビールとスコッチ)
ドロシー・パーカー(シャンパン)
エドガー・アラン・ポー(ブランデーとエッグノッグ)
トルーマン・カポーティ(シェリー、マティーニ、スクリュー・ドライバー)
ジャック・ケルアック
ウィリアム・フォークナー(ジャック・ダニエルズ)
4位がチャールズ・ブコウスキー(ビールとウィスキー)
トップスリーは、
3位F・スコット・フィッツジェラルド(主にジン)
2位ジェームス・ジョイス(シャンパンとウィスキー)
そして1位がアーネスト・ヘミングウェイ(ダイキリとウィスキー)となっています。
フローズン・ダイキリを愛したヘミングウェイ、
人生の大半を酔っぱらって過ごしたブコウスキー
ヘミングウェイは酒に対しては特別な情熱と美学を持っていた作家で、例えばキューバのハバナでよく通っていたバーについてこのような詩的なフレーズを残しています:
「我がダイキリはフロリディータで、我がモヒートはボデギータ」。
一時キューバに居を構えていたヘミングウェイがいちばん好きだった飲み物は、甘くないライムとグレープフルーツのフローズン・ダイキリで、これを彼はハバナの旧市街にあるラ・フロリディータというバーで飲んでいました。
次に彼が好んだモヒートはモヒートで有名なラ・ボデギータ・デル・メディオというバーで飲んでいたということ。レシピはドライ・ラムにライム、ミントの葉、そして砂糖ではなくシロップとビターズを2ダッシュ入れたものだった、と記されています。
でも、このモヒート説には賛否両論あって、彼がモヒートを愛飲したと言う文献はどこにもないだとか、「我がダイキリはフロリディータ」はたしかに彼が書いた文章だが、後半の「我がモヒートはボデギータ」の方は後から誰かが勝手にくっつけたものだ、などと言う人もいます。
ま、これらの説の真意はともかく、モヒートで有名なハバナのボデギータ・デル・メディオ、かなりかっこいいバーです。マイケル・マン監督の映画「マイアミ・バイス」に出てくるので、興味のある方はぜひ観てみてください。
先の酒好き作家のリストですけど、純粋な飲酒量から言うと、4位のチャールズ・ブコウスキーを1位にするべきだとぼくは思います。
彼は執筆中はもちろんのこと、人生のほとんどを酔っ払って過ごしていた男で、例えばドイツに本のサイン会に行ったとき、彼はガールフレンドと二人で飛行機にあった酒を全て飲み尽くしてしまった、という武勇伝があるくらいです。さすがのヘミングウェイも彼には太刀打ちできないと思います。
また3位のフィッツジェラルドは酒が弱いので有名で、好きなジンを一杯飲んだだけでふらふらになり、奥さんのゼルダと噴水に飛び込んだり、仮面舞踏会にパジャマ姿で行ったりと、かなり酒癖が悪かったみたいです。
『ロング・グッドバイ』の一節に
酒呑みの美学が凝縮されている
14位に挙げられていたレイモンド・チャンドラーは酒についていろいろ粋なことを書いているので、ここにその一つをご紹介します。これは小説『ロング・グッドバイ』に載っている有名な一節で、村上春樹を含む様々な人が訳しています。ここではぼくの友人で翻訳家の案納令奈さんの訳を使わせてもらいます:
「僕は夕方に店を開けたばかりのバーが好きだ。空気はまだひんやりと澄み、どこもかしこもピカピカで、バーテンダーは鏡に姿を映して、ネクタイが曲がっていないか、髪は乱れていないか、最後にもう一回チェックしている。カウンターの背後に整然と並んだボトルと、素敵に光るグラス、そして予感めいた気配が好きだ。その夜、最初のカクテルをバーテンダーが作って、ピンとしたコースターの上に置き、小さく畳まれたナプキンを、その脇に添えるのを見ているのが好きだ。その一杯をゆっくりと味わうのがいい。その夜、最初の静かなカクテルを、静かなバーで飲む。最高だね」
う〜ん、最高ですね。喉が渇いてきました。
ロバート・ハリスメールマガジン『運命のダイスを転がせ!』
<運命のダイスを転がせ!5月10 Vol.005<路上のトーク・ライブ:作家と酒:おすすめ映画『ミスター・ノーバディ』と『ディナーラッシュ』:連載小説『セクシャル・アウトロー』:4章(2)「優
子」>
既存のルールに縛られず、職業や社会的地位にとらわれることなく、自由に考え、発想し、行動する人間として生き続けてきたロバート・ハリス。多くのデュアルライフ実践家やノマドワーカーから絶大なる支持を集めています。「人生、楽しんだ者勝ち」を信条にして生きる彼が、愛について、友情について、家族について、旅や映画や本や音楽やスポーツやギャンブルやセックスや食事やファッションやサブカルチャー、運命や宿命や信仰や哲学や生きる上でのスタンスなどについて綴ります。1964年の横浜を舞台にした描きおろし小説も連載スタート!
vol.005 目次
01 近況:路上のトーク・ライブ
02 カフェ・エグザイルス:作家と酒
03 物語のある景色:おすすめ映画『ミスター・ノーバディ』と『ディナーラッシュ』
04 連載小説『セクシャル・アウトロー』:4章(2)「優子」
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