※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2017年1月20日 Vol.112 <ようやく平常運転号>より
CESの話題も先週でほぼ出尽くした感はあるが、我々取材者も記事にまとめてみると、そこでようやく全体像が見えてくることがある。そう言えばこの話はどこにも書いてないなというのが、今さらながら見つかったりするのだ。
Qualcommと言えば、今回のCESで新しいSnapdragonが発表されたことで、PCモバイル系の人たちは大忙しだったようだ。筆者が追いかけているのはAV機器関連なので、Snapdragonの取材はあまり積極的に行なっていなかったが、Qualcommブース内に設置されたスイートでは、オーディオ系の展示もかなり丁寧に行なわれていた。
今回はこの中から、近い将来我々の手元に来るであろう技術をいくつかご紹介しよう。
Bluetoothでサイレントディスコが実現? Broadcast Audio
「サイレントディスコ」なるイベントがあるのをご存じだろうか。「沈黙フェス」などとも呼ばれているようだが、これは来場者全員がヘッドホンを付け、外に音を出さずに音楽や映像イベントをやるというスタイルで、近頃日本では特に注目を集めている。
それというのも、やはり誰もが自分に関心のない大きな音に対しては、すこぶる寛容性がないという特性もあるだろう。デカい音だしたらみんなの迷惑だろという絶対的な正義が譲れない、そういうところも根底にあるようにも思える。
今の若い子もそういうことにすごく気を使うようになっているし、昔のように目茶苦茶やる大学生とかはもういないんである。そういう子たちがたどり着いたのが、「サイレントディスコ」なんである。
参加者全員がワイヤレスのヘッドホンを使用して、音はすべてヘッドホンからしか流さないわけだが、普通のBluetoothヘッドホンではできない。なぜならば、一般的なBluetoothヘッドホンは、送信側と受信側が1対1でペアリングされるので、1対多の接続ができないからである。
では現状のサイレントディスコはどうやるかというと、2.4GHz帯を使うワイヤレスヘッドホンを使っている。よく知られているところでは、AZDENの「MOTO DW-05」がある。サイレントディスコ用のレンタル品では、これが一番多いのではないだろうか。
これは送信範囲内にあるヘッドホンであれば、何台でも同時に同じ音源を聴くことができる。スピーカーでは、ソニーのワイヤレススピーカーが「ワイヤレスマルチルーム」という機能で実装している。
そのほか、AppleのAirPlayとか、米国では人気の高いSONOSといった技術も、Wi-Fiがベースだ。
これと同じようなことをBluetoothで実現するのが、Broadcast Audioという仕組みである。特にQualcomm独自の技術というわけではないが、ブースではPCからのBluetooth信号を改造されたLG HBS-1100で受信、およそ20台程度を同時に再生するというデモを行なっていた。パネルの説明には50台以上接続可能と書いてあったが、理論的には特に台数制限はなく、何台でも行けるはずだという。
・Broadcast Audioのデモブース

この機能はまだBluetoothの規格としては標準化されておらず、今回はオプションの機能組み合わせで実現している。送信側、受信側ともにBroadcast Audioへの対応が必要だが、ある程度のSoCを積んだイヤホンであれば、ファームウェアのアップデートで対応できるものもあるだろうということであった。
将来的にこの機能がBluetooth規格で標準化されれば、サイレントディスコも自分のイヤホンやヘッドホンで参加できるようになる。Wi-Fiに比べるとBluetoothのほうが省電力なので、ヘッドホンには向いているだろう。
世界初アクティブノイズキャンセリング入りSoC
Snapdragon835の発表に湧いたCESだが、地味ながらBluetoothオーディオ用のSoC「CSR8675」もCESで発表になった。
これのポイントは、ノイズキャンセリング用の演算チップもSoCの中に入れてしまったことで、このような統合は世界初だという。
ノイズキャンセリングは、外からの音を遮断する、いわゆる耳栓と同じ原理のパッシブ型と、イヤピースの外向きに付けられたマイクで外集音を拾い、それの逆相を音声信号に混ぜて打ち消すアクティブ型がある。
アクティブ型は、単に逆相信号を流し込めばいいというわけでもなく、どのぐらいの周波数帯域をどのぐらい当て込むか、さらには左右のマイクから入ってくるノイズのバランス制御など、独自の演算が必要になる。
これまでソニー、BOSEをはじめとするメーカーが出してきたノイズキャンセリングヘッドホンは、この演算用に独自チップを搭載している。それがBluetoothのSocと一緒になれば、多くのメーカーがノイズキャンセリング型ヘッドホン・イヤホンが作りやすくなる。
もうひとつこのチップのポイントは、AptX HDとaptX LL(低遅延)対応だろう。特に音楽ファンにとっては、aptX HDの最大48kHz/24bit伝送は大きい。ソニーの高音質対応コーデック「LDAC」がソニー製品にしか搭載されないことを考えると、汎用Bluetooth SoCに乗ってくる強みは計り知れない。
展示では、実際にCSR8675を搭載したリファレンスモデルも展示、さらにはノイズキャンセリング効果のデモも聴くことができた。現時点で最高レベルのノイキャンは、おそらくソニー「MDR-1000X」とBOSE「QuietComfort 35」が2大勢力かと思うが、利き具合からすればリファレンスモデルはそこまではまだまだ及ばない。
・アクティブノイズキャンセリングのリファレンスデザイン機

・アクリルケース内でノイズを出して実験

・ホワイトノイズのうち、可聴帯域が大幅にキャンセルされているのがわかる

ただ、ヘッドホン、イヤホンとしての良さは、ノイキャン性能だけでは決まらない。音質、快適さ、価格などのバランスで、数多くの製品が登場してくることを期待したい。
また展示では、Qualcomm TrueWirelessテクノロジー搭載の「CSRA63120」を使った、左右セパレート型Bluetoothイヤホンのリファレンスモデルも展示していた。
・左右セパレート型のリファレンスモデルも展示

左右間が安全に低遅延で伝送できるチップとしては、すでにNXPセミコンダクターズ「NxH2280」搭載の製品が市場に出始めているが、これは「近距離磁気誘導(NFMI)」技術が使われている。
一方CSRA63120はどういう技術で左右間を接続するのか、細かい資料が公開されていないのでよくわからない。現場で聞けばよかったのだが、取材時はまだNFMIに詳しくなかったので、思い至らなかった。ご容赦願いたい。
まあいずれにしても、今年は左右セパレート型が続々と登場しそうだ。その他aptX HD対応とノイズキャンセリング型も、早ければ今年の夏、少なくとも秋から冬にかけて大きな波が来るかもしれない。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2017年1月20日 Vol.112 <ようやく平常運転号> 目次
01 CES以降のおしごと
02 論壇【西田】
CESから見えた「インター・インテリジェンス」な未来
03 余談【小寺】
Qualcommブースで聴いたちょこっといい話
04 対談【小寺・西田】
05 過去記事【西田】
こんどの「3Dブーム」はホンモノなのか
06 ニュースクリップ
07 今週のおたより
08 バックナンバーについて
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。 ご購読・詳細はこちらから!
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