消費者保護の観点から
香月:しかもTカードに限らず、あの手の約款ってその場で読みませんからね……。
鈴木:約款も契約ですから利用者も本来はきちんと読まなければなりません。約款だからスルーしましたということはいけません。しかし、T会員規約は、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日、性別という個人識別情報に、TSUTAYAだけでなく、レストラン、コンビニ、薬局や駐車場などの多数のポイント加盟企業での購買履歴を蓄積していきます。購買日時や店舗名(所在地)情報もわかりますから、物理的行動範囲の情報、生活圏もわかってしまいます。これらをライフスタイルの分析に用いて、さらに行動ターゲティング広告で収益をあげるモデルです。いわばその対価としてポイントを付与するわけですが、そのことが十分に契約の相手方である本人に伝わっているかというと、約款の文面上なかなか伝わらない。高齢者や未成年なども対象になることを思えば、伝えようという姿勢が十分ではないということに多くの人が賛同してくれるのではないでしょうか。
しかも、医薬品販売業を通じて、医薬品名まで取得されることがあります。医薬品販売業者は、CCCの個人情報の取得業務を委託されている立場ですが、刑法の秘密漏示罪においては、医薬品販売業者は医薬品名などの秘密をCCC等の第三者に漏示してはならない義務を負った立場です。第一に医薬品販売業者が安易にポイント加盟企業にならないように注意すべきですが、第二にCCCも医薬品販売業者にポイント加盟企業となることを安易に勧めることのないように注意しなくてはなりません。新聞報道によると、本件については、医薬品販売業者の店員すら医薬品名をCCCに提供していないという誤った情報を顧客本人に伝えているという例がいくつかあったそうです。
T会員規約を承諾したから契約内容は了解しているはず、Tカードを提示して買い物をすればポイントが付くだけではなく、購買履歴等が取得されるのは当然知っているはずということがどこまで言えるのか――形式論ではなく、もっとその実態と実質を評価していく必要があります。
15条1項はできる限り特定せよと義務付けていますが、T会員規約はずらずらと多数の利用目的を書き連ねています。利用目的も列挙すればいいというものではないでしょう。それに「ライフスタイルの分析」という曖昧な表現で、こうしたビジネスモデル全体を万人が理解できるのか、利用目的の制限(16条1項)の義務付けもまったく空疎で本人の権利利益の保護という法目的を達成できる法解釈になっているのか甚だ怪しいわけです。
それに加えて、開示の求めの範囲も著しく狭いという苦情も寄せられていたようです。契約内容も、運用も極めて全体的に遵法の精神に乏しいというところを背景に、共同利用の潜脱的法解釈を厳しく評価していくべきだと思います。
消費者に対しての不利益事実を十分に告知していないという点については、個人情報保護法だけではなく、消費者保護法制でもしっかり見ていくべきでしょう。
その他の記事
|
百貨店、アパレル、航空会社… コロナで死ぬ業種をどこまでゾンビ化させるべきか(やまもといちろう) |
|
僕たちは「問題」によって生かされる<後編>(小山龍介) |
|
ここまで政策不在の総選挙も珍しいのではないか(やまもといちろう) |
|
変わる放送、Inter BEEに見るトレンド(小寺信良) |
|
LINE傍受疑惑、韓国「国家情報院」の素顔(スプラウト) |
|
Amazon(アマゾン)が踏み込む「協力金という名の取引税」という独禁領域の蹉跌(やまもといちろう) |
|
横断幕事件の告発者が語る「本当に訴えたかったこと」(宇都宮徹壱) |
|
“コタツ記事”を造語した本人が考える現代のコタツ記事(本田雅一) |
|
ビデオカメラの起動音、いる?(小寺信良) |
|
体調を崩さないクーラーの使い方–鍼灸師が教える暑い夏を乗り切る方法(若林理砂) |
|
四季折々に最先端の施術やサプリメントを自分で選ぶ時代(高城剛) |
|
総務省調査に見るネット利用の姿(小寺信良) |
|
「人を2種類に分けるとすれば?」という質問に対する高城剛の答え(高城剛) |
|
音声入力を使った英語原書の読書法(高城剛) |
|
「アジカン」ゴッチと一緒に考える、3.11後の日本(津田大介) |











