狙いは国家による情報統制への警告
──漏らしたのはアップルではなく、FBIでもなく、そもそもクリティカルな顧客情報ですらなかった。ではなぜアンチセックは「国民を監視目的のためアップルがFBIにデータを渡し、ハッカーがFBIのノートパソコンに侵入してデータを盗み出し、その陰謀を暴いた」というストーリーを発表したのでしょう。
津田:うーん。かっこよくいえば国家による情報統制への警告としてやったということかもしれませんが、デマですからね……。実際のところは、たまたまBlueToadのサーバーに侵入できてしまった今回の犯人が愉快犯的に話を大きくして公開したということなんじゃないでしょうか。アンチセックの犯行声明が事実だったら「世紀の情報漏洩事件」になったんでしょうが、実態はこれですから。とはいえ、個人に対する実質的な被害はほぼなかったわけですから、その意味では良かったと思います。
──今後、似たような事件が起きる可能性は?
津田:産業技術総合研究所の高木浩光さん [*17] は、2012年3月の時点で今回の一件で起きたようなリスクについてツイッターで警告しています。[*18] 高木さんはUDIDやMACアドレス [*19] のような端末固有番号を行動ターゲティング広告に使うことを問題視しており、それは何らかの形で他人のUDIDやMACアドレスを調べ、それを広告サーバーに送信することでその人の趣味嗜好がわかってしまうからなんですね。低いプライバシー意識に端を発する問題は、日本のIT企業でも起きており、高木さんは実際にUDIDを利用してログインを実装していたまずい例をブログやツイッターで指摘しています。[*20] このあたりの問題は日本の技術者コミュニティでも話題になりました。[*21] ただ、勘違いしてはいけないのは、UDID自体が悪なのではなく、UDIDをキーとして個人情報をオープンにするサービス・アプリがある、そのことが問題であるということです。これを解決するには、日本にもきちんとプライバシーの問題を独立して指導監督できる三条委員会 [*22] や独立機関を作る必要があると個人的には思っています。プライバシーに関して独立的にガバナンスが効かせられる状態が生まれない限り、本来の目的を超えてプライバシーを侵害するような悪質事業者を完全に排除することはできないでしょう。

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