津田大介
@tsuda

メルマガ『メディアの現場』vol.46「今週のニュースピックアップ」より

政府の原発ゼロ政策はなぜ骨抜きになったのか

核のゴミが行き場を失う

――「再処理工場がまだできていない」ということは、日本の原発から出た使用済み核燃料は、リサイクルされていない、ということなのでしょうか?

津田:いいえ、イギリスとフランスに運んで再処理してもらっています。

ただ、イギリスでも、日本の原発を大口顧客としていたセラフィールド工場は2011年8月3日、「日本の電力会社の計画が不透明になった」として工場の閉鎖を発表しました。[*13] 優良顧客だった浜岡原発の運転停止が引き金になったとされています。

一方のフランスでは、日本の「革新的エネルギー・環境戦略」発表に先立って、「原発ゼロを目指すなら、再処理は不要になるんじゃないの? そうなったら、うちに委託している使用済み核燃料は引き取ってくれるんでしょ?」と日本に詰め寄ってきています。[*14]

 

――日本が「原発ゼロ」を目指すなら、「原発から出た使用済み核燃料を再処理して使い回す」という核燃料サイクルを推進する必要がなくなる。そうなれば、日本から来た核のゴミが自国に残されてしまうかもしれない――フランスはそう懸念したんですね。

津田:はい。事情は先ほど話した六ケ所村でも同じなんですよ。まだ再処理工場はできていないものの、現地ではすでに全国の原発から2919トンもの使用済み核燃料を受け入れていて、燃料プールのおよそ97%が埋まっている状態です。[*15]

仮に核燃料サイクルがご破算になったら「最終処分場」として、引き取り手のない核のゴミを村、そして青森県が背負わされるかもしれない。それは、どういうことか。青森県は、再処理工場やMOX燃料工場がある六ケ所村とは別に、原子力発電所から出る使用済み核燃料を一時的に保管しておく「中間貯蔵施設」をむつ市に建設中なんです。[*16]

中間貯蔵施設は、六ケ所村で試験中の再処理工場、MOX燃料工場とともに核燃料サイクルを継続していくうえで不可欠な存在。つまり、青森県は核燃料サイクルと一心同体――核燃料サイクルに依存することで、リスクとともに原発マネーを得ている。

だから、原発ゼロ、そして核燃料サイクルが見直されることになった場合、これまでの苦労がムダになるばかりか、今まで作ってきた核燃料サイクルのための施設が、なし崩し的に核のゴミを埋めておくための最終処分場に転用されるかもしれないという恐怖感があるんですね。

そこで六ケ所村は、「革新的エネルギー・環境戦略」の発表に先立つ9月7日、こう決定したんですよ。仮に政府が核燃料サイクルを撤回すれば、新たな使用済み核燃料を受け入れず、現在貯蔵している使用済み核燃料を全国の原発に送り返します――とね。

 

――政府に対して六ケ所村がそう主張することの裏にはどんな狙いがあるんでしょうか。

津田:まず押さえておかなければいけないのは、もし六ケ所村、そしていずれ完成するむつ市の中間貯蔵施設で使用済み核燃料を受け入れてくれないとなったら、いずれ日本には使用済み核燃料の置き場所がなくなってしまうという事実です。日本の原発は今、使用済み核燃料の置き場所をめぐる問題に悩まされているんです。

各原発には、使用済み核燃料の燃料プールがあります。使用済み核燃料は信じられないほど高温になっているので、燃料プールで3~5年ほど寝かせ、十分に冷却してから再処理に回す。

六ケ所村が受け入れてくれないとなったら、各原発はしばらくの間、自分たちの燃料プールに使用済み核燃料を保管しておかなければなりません。でもこのまま行けば、どの原発も、あと数年で容量が満杯になってしまいます。[*17] そうなれば国内の6割に上る原発が、運転不可の状態に陥るんですね。

だから、六ケ所村が「現在貯蔵している使用済み核燃料を全国の原発に送り返す」と言ったのは、いってみれば膨大な使用済み核燃料を引き受けてることをタテにした「脅し」ですね。そんなことをされたら国も困るし、電力会社も困る。だから、今回の「革新的エネルギー・環境戦略」には、「核燃料サイクルは中長期的にぶれずに着実に推進する」と明記されたんですよ。

 

――使用済み核燃料がいっぱいになると、原発が動かせなくなるんですね。燃料プールで放射能漏れのような恐ろしい事故が起こる可能性だってゼロじゃないだろうし――。

津田:燃料プールの危険性は、福島第一原発事故の時にも注目されましたね。今でも4号機の燃料プールには1331本の使用済み核燃料と、使用前の新燃料202本が保管されており、予断を許さない状況が続いています。だからアメリカでは、使用済み核燃料をそのまま保存する「乾式貯蔵」という方法に移行する決断を下しています。[*18]

 

――現状、日本では、使用済み核燃料が溜まっていく一方だと。

津田:もんじゅもきちんと動かず、とっくに完成予定だった六ケ所村の再処理工場は延期を繰り返し、それでも国が何とか維持しようとしている核燃料サイクルですが、仮に両者が正常に動いたとしても、再処理工場などで出た高レベル放射性廃棄物を地盤が安定した地層の下で保管する最終処分場の設置場所が決まらないと、核燃料サイクルは完成しないんです。でも、現時点では最終処分場の設置場所のメドはまったく立っていない――これこそが「原発はトイレのないマンションと同じだ」と言われるゆえんです。

 

――最終処分場の設置場所はなぜ決まらないんでしょう?

津田:原発以上に住民の反対感情があるからです。最終処分場は、原子力発電環境整備機構が窓口となって探していますが、彼らの試算によれば、処分場を受け入れる自治体と近隣自治体が受ける経済効果は総計2兆8700億円と非常に大きい。にもかかわらず、最終処分場を誘致しようと手を挙げる自治体は今のところ見当たらないんです。[*19]

東日本大震災関連のがれき受け入れ問題でも表面化しましたが、そもそも普通のゴミ処理場や、産業廃棄物の処理場は、作る際にだいたい地元から強烈な反対運動が起きます。「ゴミの側では暮らしたくない」という素朴な感情や、「ゴミから発生する有害物質などによる健康被害が怖い」という感情があるんでしょう。普通のゴミですらそうなのに、使用済み核燃料となると、近寄っただけで即死するほどの放射能を放出する「高レベル放射性廃棄物」です。それを埋めるわけですから、地下とはいえ、多くの住民にとっては「かんべんしてくれ」となるのは当たり前の話です。

実は2007年、高知県東洋町の町長が最終処分場の書面調査検討をするなど、候補地が出たことはあるんですが、住民の反対感情が大きく、町長はその後の選挙で落選し、話は立ち消えになりました。

福島第一原発事故以前でさえそんな状況ですから、あれだけの事故を引き起こした3.11以後、最終処分場の候補地として手を挙げる自治体は、当分の間、出てこないでしょう。福島第一原発事故が起きたせいで、より「トイレ」が作りにくくなったんです。

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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