核燃料サイクルは、そう簡単に止まらない
――核燃料サイクルは、さまざまなレイヤーで難しい問題をはらんでいるんですね。
津田:高速増殖炉って、むちゃくちゃ実用化が難しいんですよ。それは原子力の国際潮流が示している。先ほども言ったとおり、原子炉の冷却にナトリウムを使うぶん、普通の原子炉よりも危ない。だから、高速増殖炉の実用化を前提としている核燃料サイクルは、そう簡単にうまくいくはずがないんです。
全104基の原発を保有する原発大国・アメリカも、核燃料サイクルはあきらめました。フランスでも高速増殖炉の実用化を狙い、開発ステップ全5段階のうち4段階目まで突き進んだのですが、「採算合わないよ、危ないし」ということで止めました。
全世界を見渡せば、高速増殖炉を稼働させている国も一部にあるものの、「原発大国」と呼ばれるところはだいたい撤退しているという状況。それをやっていないのは日本だけです。原発推進派であっても、話がひとたび核燃料サイクルやもんじゅに及んだ途端「いや、あれはダメでしょ、はやく潰しちゃったほうがいい」なんていう人も結構います。自民党の河野太郎議員は「僕は『反原発』じゃない、『反核燃料サイクル』だ」[*24] と言っていますが、あれは、そういうことなんですよ。
福島第一原発の事故後、核燃料サイクルについての情報もメディアで大きく取り上げられるようになり、日本人の中でもようやく「やっぱ核燃料サイクルは無理だろ」と思い始める人が出てきた。
だけど、それを認めてしまうと、核燃料サイクルを前提にしていたシステムが崩れてしまう。9月14日にエネルギー・環境会議が発表した「革新的エネルギー・環境戦略」では、「原発ゼロ」と「核燃料サイクルの推進」の両方が盛り込まれましたが、この2つは同時に成立しない――そもそも矛盾しているわけです。
経産省の役人や、マスコミの経済部の記者たちは9月14日の同戦略に「核燃料サイクルの推進」が盛り込まれていた時点で「2030年代の原発ゼロは現実に達成させなくてもいい努力目標」――骨抜きになることを予想していました。
東京新聞の9月22日付記事のように、原発ゼロ方針を閣議決定しなかった背景にアメリカの意向があったとする意見もありますが、[*25] 「政府は9月14日に原発ゼロという方針を示したのに、経済界や米国の圧力に政府が屈して方針を転換、骨抜きにした」という物言いは、僕は大きな視点で見れば、間違っていると思います。
政府が本気で2030年代の原発ゼロを目指すのなら、核燃料サイクルやもんじゅに対しても、何らかの見直し、縮小の見取り図を示さなければいけなかった。というか、そうしないと整合性がとれない。そこの部分にメスを入れられなかった時点で、政府は圧力で「変節」したのではなく、「原発ゼロ」にする気が初めからなかったんだと思います。
別の言い方をすれば、わずか1年の議論では、とてもじゃないけど、めちゃくちゃ複雑なこの問題に結論を出せなかったということなのかなと。
――核燃料サイクルを断ち切ることは、果たして可能なのでしょうか?
津田:これには電力会社の経営問題がからんでくるから、さらに話がややこしいんですよ。
原発を持っているのは、電力会社です。彼らは使用済み核燃料の再処理なんて、やりたくなかったんですよ。だって、実現するかどうかわからない高速増殖炉を前提にした計画なわけだから。だけど、最終的には協力することになった、と。
で、「再処理を行う」という前提になると、電力会社にとって使用済み核燃料はどんな位置づけになるか? 一度使っても、再び燃料として使えるから、「資産」になるんです。
けれど、仮に核燃料サイクルを止めると決まって、「もう使用済み核燃料は再処理しません」となったとしたら、資産だったはずのものが、一気に「負債」になってしまう。財務状況が悪化してしまうんですよ。これも、電力会社的には大きな問題です。[*26]
電力会社が原発をやめない一番大きな理由は彼らの財務的な問題にある、という指摘は一貫して経済学者の金子勝慶應義塾大学教授がしていますね。[*27] そのあたりは彼の『原発は不良債権である』(岩波ブックレット)[*28] という本で詳しく書かれているので、興味がある方はご一読を。
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