津田大介
@tsuda

メルマガ『メディアの現場』vol.46「今週のニュースピックアップ」より

政府の原発ゼロ政策はなぜ骨抜きになったのか

日本は脱原発できるのか

――まっとうな手段で抜本的な解決をするとしたら、合意形成に時間がかかるわけですよね。短期的な見通しはどうですか?

津田:核燃料サイクルに利害関係を持つ登場人物が複数いる以上、使用済み核燃料の再処理を止めるのは難しいでしょうね。事実、核燃料サイクルと相容れなかった「原発ゼロ」の方針が翻されたことで、新しい原発と核燃料サイクルを推進する動きが出てきています。

枝野幸男経済産業相は9月15日、現在建設中の原発3つについて、建設継続を認める考えを示しました。[*34] うち一つ、青森県で建設中の大間原発は、「軽水炉なのにフルMOX燃料対応している」という世界初の原子炉で、プルサーマルを念頭においているんですよ。[*35]

そして、平野博文文部科学相は9月18日、もんじゅがある福井県の西川一誠知事と会談し、「(もんじゅについて)従来の政策を大きく変更しているつもりはない」と述べました。[*36] 「革新的エネルギー・環境戦略」では、もんじゅの実用化を断念する、と宣言しているはずなのにね。もんじゅについては、文科相と経産相、そして福井県知事の三者で協議を行ったうえで、今後の研究開発予定を具体的に決めていく方針となっています。[*37]

そして、9月19日に開かれた閣議において、政府は「革新的エネルギー・環境戦略」を「参考文書」と位置づけ、閣議決定を事実上見送りました。日本政府は、方針として原発と核燃料サイクルを維持し、当面の間、すべての問題を「先送り」することを決めたのです。

 

――国のエネルギー・環境政策の礎(いしずえ)となるはずだった戦略が、なぜここに来て骨抜きになってしまったのでしょう?

津田:エネルギー・環境会議の出した「原発ゼロ」という結論は、まず経済産業省の有識者による審議会で、2030年の電源構成における原発の比率別に選択肢を絞り、それを受けて国家戦略室が「0%」「15%」「20~25%」の3つを提示したという流れがあります。[*38]

そして、今年7月には「国民的議論」が必要だとして、各地で意見聴取会とパブリックコメント、そして討論型世論調査を行い、結果はいずれも原発ゼロの要望がトップになりました。

経産省の官僚と政府は、「松竹梅」を提示したら、多くの人が「竹」を選ぶ――そんな日本人の特性を考えて「0%」「15%」「20~25%」を提示し、15%を選ばせたいとの思惑があったんでしょう。

しかし、大飯原発再稼働のプロセスのひどさなどが目立つようになり、官邸前デモも日増しに激しさを増し、8月以降世論調査などでも0%を選ぶ層が拡大していきました。

政府と官僚、そして経済界にとっても、この結果は予想外だったでしょう。事故から1年という「ほとぼりが冷めていると思われるタイミング」でこれですから。安保闘争以来の大規模デモが起き、最終的にマスメディアも取り上げるようになった。もしかしたら、事故直後の1年半前よりいまのほうが、反原発の機運は高まっているかもしれませんね。

15%――「『縮原発』が国民の選択」という結果を導き出せれば、核燃料サイクルの維持も一緒に盛り込める。政府と官僚が最初に描いた地図は「縮原発・核燃料サイクル維持」で、それを今後の国家戦略として使っていくつもりだったのでしょうが、思った以上に原発への忌避感が強く、3つの調査で圧倒的に原発ゼロが勝ってしまった。

「国民の意見は圧倒的に0%が多かったですけど、こちらの勝手な都合になりますが、15%で行きます」とか言ったら、それはもうなんというか、大荒れが目に見えてますよね。何のために高いコストをかけて3つも調査やったのかって話になるし、民主党としても選挙が近いから、それは避けたかった。だから彼らは「国民の声を受けて0%にしたけど、核燃料サイクルは維持」という矛盾した結果を出さざるを得なくなり、本来は国家戦略として使うはずのもののランクを落として、「努力目標」に格下げしたわけです。

だから「骨抜きになった」のではなく、「最初から骨はなかったのに、あると思って期待していたから、裏切られたように思う人が多かった」ということが、この問題の本質だと僕は思っています。

 

――結局日本で脱原発をするのは無理なんでしょうか……。

津田:原子力には、世界各国のパワーバランスやエネルギー安全保障の問題がからんできて、必ずしも一筋縄で解決できるものではありません。いかに日本人の多くが脱原発を望んでいても、現実的に2030年代までに原発をゼロにするのは難しいでしょう。

だからといって目指すなという話ではなく、僕はいくら困難な道であっても、原発ゼロを目指すべきだと思っています。

とはいえ、原発の問題点だけ批判していても状況は変わりません。再生可能エネルギーが今後どれだけ伸びたとしても、です。本丸は、すでに「詰んでる」状態の核燃料サイクルをどう穏便に終了させられるか。その道筋を整えない限り、脱原発は夢のまた夢で終わるんでしょうね。

 

[*1] http://www.jaea.go.jp/04/monju/index.html

[*2] http://www.kantei.go.jp/jp/topics/2012/pdf/20120914senryaku.pdf#page=7

[*3] http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/tyoki1956/chokei.htm

[*4] http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/tyoki1967/chokei.htm

[*5] http://www.jaea.go.jp/

[*6] http://www.47news.jp/CN/201005/CN2010050901000219.html

[*7] 当時の事故対応の検討に関する資料が日本原子力研究開発機構のサイト
に上がっている。
http://www.jaea.go.jp/04/turuga/jturuga/press/posirase/1101/o110118-2.pdf

[*8] http://mainichi.jp/select/news/20120809k0000m040067000c.html

[*9] 『さようなら、もんじゅ君』(河出書房新社)の記述による。

[*10] http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/0004622023.shtml

[*11] http://news.livedoor.com/article/detail/4610379/

[*12] http://www.asahi.com/national/update/0919/TKY201209190168.html?ref=dwango

[*13] http://www.47news.jp/CN/201108/CN2011080301001231.html

[*14] http://mainichi.jp/select/news/20120914k0000m020098000c.html

[*15] http://www.asahi.com/national/update/0919/TKY201209190168.html

[*16] http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG09005_Z00C10A9000000/

[*17] http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012090402000109.html

[*18] http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/hatukaku/siryo/siryo8/siryo3-1.pdf#page=12

[*19] http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG09005_Z00C10A9000000/?df=2

[*20] http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20110608/106639/

[*21] http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/kettei/seimei/111110.pdf

[*22] http://mytown.asahi.com/aomori/news.php?k_id=02000571202090001

[*23] http://news.livedoor.com/article/detail/5879286/

[*24] http://blogos.com/article/23643/

[*25] http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2012092202000098.html

[*26] http://seiji.yahoo.co.jp/m/article/20120530-01-0901.html

[*27] http://blog.livedoor.jp/kaneko_masaru/archives/1668580.html

[*28] http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4002708365/tsudamag-22

[*29] 原子力発電環境整備機構(NUMO)が発表した資料を見ると、各国とも十
分な検討を行ったうえで、直接処分の候補地を定めていることがわかる。
http://www.numo.or.jp/pr/booklet/pdf/anzensei_10.pdf#page=4

[*30] 大熊町→http://www.town.okuma.fukushima.jp/rad_20120912.html

双葉町→http://www.town.futaba.fukushima.jp/oshirase/genshiryoku/23.html/

富岡町→http://www.tomioka-town.jp/?p=5769

楢葉町→http://www.naraha.net/?p=1222

[*31] http://blog.goo.ne.jp/tarutaru22/e/5428d034a4a01ae11d55d1c01b7c7450

[*32] http://www.uplink.co.jp/100000/

[*33] http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-k159-1.pdf

[*34] http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2012091602000116.html

[*35] http://www.jpower.co.jp/bs/field/gensiryoku/project/aspect/mox/attribute/index.html

[*36] http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120918-OYT1T00647.htm

[*37] http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/fukui/news/20120918-OYT8T01665.htm

[*38] http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120629/20120629_1.pdf

 

津田大介のメルマガ『メディアの現場』vol.46「今週のニュースピックアップ」より>

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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