津田大介
@tsuda

メルマガ『メディアの現場』vol.46「今週のニュースピックアップ」より

政府の原発ゼロ政策はなぜ骨抜きになったのか

使用済み核燃料と核兵器は同じ?

――使用済み核燃料がいっぱいになると、原発が動かせなくなるんですね。放射能漏れのような恐ろしい事故が起こる可能性だってゼロじゃないでしょうし……。

津田:使用済み核燃料をめぐっては、さまざまな派生問題があります。

先ほどお話ししたように、高速増殖炉では、ウランとプルトニウムを合わせたMOX燃料を使っているんですね。その使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して加工すれば、核兵器が作れる。

「使用済み核燃料=姿を変えたプルトニウム」。これを大量に保有していると、ほかの国から「日本は核兵器を作ろうとしているのではないか」と疑われるおそれがあるんです。だから、使用済み核燃料はイギリスやフランスに送ってでも再処理し、MOX燃料にしなければなりません。

だけど高速増殖炉は、まだ実用段階になっていないから、そのMOX燃料も溜まりがちになります。これを何とかしないと、外交的にいろいろ問題あるじゃないですか。

そこで始まったのが「プルサーマル計画」なんです。本来なら高速増殖炉でしか使えないMOX燃料を、普通の軽水炉で無理やり使う――そうすれば溜まっているものが消化できるし、対外的にもカッコがつくでしょ、と。

でもプルサーマルを行うには、ものすごいお金がかかるんです。政府が試算したところでは、9000億円分のMOX燃料を作るのに、12兆円かかるといいます。[*20] しかも、安全性にも疑問符がつくという……。

なお、原子力委員会が2011年11月10日に発表した「核燃料サイクルコスト、事故リスクコストの試算について」という資料によると、1kW時あたりの処理費は、プルサーマルの場合が約2円。通常どおりの燃料を使った場合が約1円となっています。[*21]

 

――えーっ! いち消費者からすると「アホらしい」としか言いようがありません。だって、プルサーマルによって無駄なコストが発生し、、私たちが支払っている電気料金に跳ね返っている、ってことじゃないですか。

津田:はい。日本の電気料金は、発電にかかったお金はすべて消費者に請求でき、一定の利益を上乗せしてOKという「総括原価方式」で決まっています。プルサーマル計画の費用も当然、僕らが支払わなければなりません。

ただ、こうした問題を消費者的な視点のみで捉えると、重要な点を見失ってしまうんですよね。これって要は、外交にもかかわってくる話なんですよ。

使用済み核燃料を大量に持っていると、核兵器を作るんじゃないかと疑われます。そして実を言うと、使用済み核燃料の再処理技術は、核兵器製造技術とほぼ同じ。こう見ると、核燃料サイクルそのものが、ちょっと違った色彩を帯びてきませんか?

そこで、「日本が核燃料サイクルにこだわる理由はエネルギー自給だけじゃない、潜在的な核兵器の製造能力を持っていたいからなんだ」と主張する人たちも中にはいるんです。

たとえば読売新聞は2011年9月7日、同紙の社説で次のように主張しました。「日本は原子力の平和利用を通じて核不拡散防止条約(NPT)体制の強化に努め、核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こうした現状が、外交的には、潜在的な核抑止力として機能していることも事実だ」と。[*22]

脱原発の動きが高まってきた今、読売新聞に限らず、原発の意義を語る人たちが現れ始めています。自民党の石破茂議員なんてまさにそうですよね。[*23]

でもね。日本はNPTに加盟している以上、核兵器は持てないわけです。インドやパキスタン、イスラエルのように非加盟ならば別ですが、加盟している以上、実際に核兵器として転用するには、北朝鮮のようにアメリカと対立することも辞さない覚悟でNPTを脱退しなければならない。

ただでさえ鳩山政権の普天間基地移設問題でアメリカと揉めてる日本にそんなことできるの? って話で、そんな状況下でどこまでこれが抑止力になるのか。

安全保障という意味でいえば、日本には54基も原発があり、軍事攻撃の標的にされる可能性もある。いくら核武装がすぐにできるといっても、これだけ数が多くて、自然災害で破壊されてしまうような原発を核武装の観点から推進していくのは、外交的にも安全保障的にもリスクが大きすぎるのではないでしょうか。

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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