あなたもきっと数学を好きになれる

『数覚とは何か?』 スタニスラス ドゥアンヌ著

数学を脳から解放させてほしい

そうした動的な数学観から、どのような世界が開けてくるか。

本書の一貫した主張は、第4章の“numeration systems have evolved both through the brain and for the brain”(数システムは、「脳を通して」生み出されてきたと同時に、「脳のために」進化してきた)という一文に端的に表現されている。

マグロと周囲の水をマグロの尾ひれが媒介していたように、数学はヒトの脳と環境を媒介するものとして構成されていくわけだが、その過程で数学と脳は互いに歩み寄っていく。そして、そうした動的な過程の結果として構成される数学の構造の中には、人の思考の傾向が否応なしに映り込んでいくのである。

本書では自然数のシステムが構成されていく歴史を振り返った後、さらに記数法のシステムや初等的な代数計算の方法がどのように獲得されてきたかを振り返っていくのだが、これを、数学の概念やシステムの中に刻印されている人の思考の特性を読み解いていく過程としてみると、なかなかスリリングである。

天地創造論が生物種を神の創造物と考えたのに対して、ダーウィンは生物種が時間の産物に他ならないことを看破した。本書を丁寧に読み解いていくと、時間の産物としての数学ということが少しずつ見えてくるのではないかと思う。うまくいけば、数学に流れる「時間」ということもあるいは感じ取れるかもしれない。

数学とは何かということを、その身体的な側面から考察してみたい人にぜひともオススメしたい一冊であることは間違いないが、なによりも、数学が脳の中に閉じこもっていると思っている方は、ぜひ本書を手にとって、数学を脳から解放してやってほしいと思う。

脳から飛び出して、身体と脳とのあいだで生き生きと育っていく数学の様子を目にしたら、いままで数学が嫌いだった人も、少しだけ数学を好きになれるに違いない。

 

<森田真生氏は甲野善紀氏メルマガ『風の先、風の跡』にて、「この日の学校」を連載中です。もしよろしければ、ご一読ください>

1 2 3

その他の記事

泣き止まない赤ん坊に疲れ果てているあなたへ(若林理砂)
イケてた会社のリストラに思う(やまもといちろう)
安倍晋三さんの総理辞任と国難級のあれこれ(やまもといちろう)
「データサイエンスと個人情報」の危ない関係(やまもといちろう)
人は何をもってその商品を選ぶのか(小寺信良)
川上なな実さんインタビュー「自分を客観視し切らないと、コントロールできない」(切通理作)
猥雑なエネルギーに満ちあふれていた1964年という時代〜『運命のダイスを転がせ!』創刊によせて(ロバート・ハリス)
ぼくが作った映画を『進撃の巨人』の脚本を担当し『もしドラ』を酷評した町山智浩さんに見てもらいたい(岩崎夏海)
「自由に生きる」ためのたったひとつの条件(岩崎夏海)
有料のオンラインサロンを2年やってみて分かったこと(やまもといちろう)
なぜアップルのユーザーサポートは「絶賛」と「批判」の両極の評価を受けるのか(西田宗千佳)
友人知人との別れと世迷いごとの類(やまもといちろう)
終わらない「大学生の奨学金論争」と疲弊する学びの現場(やまもといちろう)
『「赤毛のアン」で英語づけ』(1) つらい現実を超える〝想像〟の力(茂木健一郎)
インド最大の都市で感じる気候変動の脅威(高城剛)
Array

ページのトップへ