数学を脳から解放させてほしい
そうした動的な数学観から、どのような世界が開けてくるか。
本書の一貫した主張は、第4章の“numeration systems have evolved both through the brain and for the brain”(数システムは、「脳を通して」生み出されてきたと同時に、「脳のために」進化してきた)という一文に端的に表現されている。
マグロと周囲の水をマグロの尾ひれが媒介していたように、数学はヒトの脳と環境を媒介するものとして構成されていくわけだが、その過程で数学と脳は互いに歩み寄っていく。そして、そうした動的な過程の結果として構成される数学の構造の中には、人の思考の傾向が否応なしに映り込んでいくのである。
本書では自然数のシステムが構成されていく歴史を振り返った後、さらに記数法のシステムや初等的な代数計算の方法がどのように獲得されてきたかを振り返っていくのだが、これを、数学の概念やシステムの中に刻印されている人の思考の特性を読み解いていく過程としてみると、なかなかスリリングである。
天地創造論が生物種を神の創造物と考えたのに対して、ダーウィンは生物種が時間の産物に他ならないことを看破した。本書を丁寧に読み解いていくと、時間の産物としての数学ということが少しずつ見えてくるのではないかと思う。うまくいけば、数学に流れる「時間」ということもあるいは感じ取れるかもしれない。
数学とは何かということを、その身体的な側面から考察してみたい人にぜひともオススメしたい一冊であることは間違いないが、なによりも、数学が脳の中に閉じこもっていると思っている方は、ぜひ本書を手にとって、数学を脳から解放してやってほしいと思う。
脳から飛び出して、身体と脳とのあいだで生き生きと育っていく数学の様子を目にしたら、いままで数学が嫌いだった人も、少しだけ数学を好きになれるに違いない。
<森田真生氏は甲野善紀氏メルマガ『風の先、風の跡』にて、「この日の学校」を連載中です。もしよろしければ、ご一読ください>
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