津田大介
@tsuda

若手中国ウォッチャー・山谷剛史氏に訊く

「反日デモ」はメディアでどう報じられ、伝わったか

「愛国」と「害国」

津田:山谷さんが書いていたコラムで面白いと思ったことがあるんです。反日デモで暴徒化し、破壊行動に走った人をたしなめる意味で、中国の新聞「中国青年報」が8月20日付の同紙で「害国」という言葉を使いましたよね。「同胞の車を破壊するのは愛国(アイグォ)ではなく害国(ハイグォ)である」と。[*5] これにより、「害国」という言葉が、ネットで一時流行ったそうですね。

山谷:はい、みんな「うまいこと言うなぁ」と一気に使い始めました。ウェイボーの検索機能で調べると、やはり行き過ぎた愛国心を戒める意味で「害国」という言葉が使われていたりしますね。[*6] 「それ害国だろ。国を害するからやめろ」みたいに。

津田:それはどういうユーザーが書き込んでいるのでしょう? ネットのヘビーユーザーなのか、それとも普通のユーザーなのか……。

山谷:割と普通のネットユーザー、一般人が多いですね。彼らは尖閣問題に限っていえば、興味の大小はあるにしても、「日本が悪い」という認識を共有しています。そうは言っても、わりと傍観していて、かなり理性はある。われわれが日本のメディアで見るような、暴徒化した反日デモ参加者とは違います。むしろ、同胞のモラルの低さを見て、悲しんでるんですよ。「中国はまた負けた。日本に負けたのではなく、おのれに負けたんだ(また中国国民は愚かだった)」とね。

津田:今回は反日が行き過ぎて、中国の新聞社が「良い愛国、悪い愛国」の絵を発表するまでになりましたね。[*7]

山谷:「新華社」という新聞社が、自社サイトの「新華網」[*8] にアップしたものですね。9月17日のことです。新華社は中国の新聞では王様のような存在——いわば政府の広報誌みたいな位置づけです。

「権威のある新華社がこんな図を出しました」となったら、多くのメディアがそのまま転載し、自然と広まっていく。中国のメディアでは、本文をまるごと転載しても、法律的にOKなんですね。引用元さえ書いておけば問題ない。

最近の中国政府は、オフィシャルな情報をすばやく出すという方針を採っているから、とにかく「反暴力、理性の愛国」をわかりやすく伝えなきゃ、ということで、あのタイミングであの絵を出したのでしょう。

津田:絵を見ると、言わんとすることは何となくわかるけれど、具体的に何が書かれているのか気になります。

[caption id="attachment_1811" align="alignnone" width="480"] 出典:http://news.xinhuanet.com/photo/2012-09/17/c_123726019.htm[/caption]

山谷:ちょっと確認しますね。「ここにゴミを捨てるな」という注意書きがあるということはゴミを捨てる人がいるわけで、今は注意書きのことをやる人が少なからずいることを意味します。意訳になりますが、言っていることの概要は次のとおりです。

《暴力“碍”国……暴力は中国をダメにする》
(左上)日本料理屋での食い逃げ
(中上)在中日本人を攻撃
(右上)同胞の日本車を破壊
(左下)スーパーで市民の日本製品の購入阻止
(中下)店舗焼き討ち
(右下)ネットユーザーを煽る文言をばらまくこと

《理性愛国……理性は中国を良くする》
(左上)政府の外交を支持
(中上)法律を守り同胞の財産を尊重する
(右上)同胞が団結して愛国をアピールし、国家主権と領土を守る
(左下)真面目に働き祖国に貢献
(中下)日本製品不買でなく日本製品に代わる製品を開発
(右下)ルールを守らず同胞の財産を守らねば愛国の字汚し

1 2 3
津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

その他の記事

ひとりぼっちの時間(ソロタイム)のススメ(名越康文)
菅政権が仕掛ける「通信再編」 日経が放った微妙に飛ばし気味な大NTT構想が投げかけるもの(やまもといちろう)
心身を整えながら幸福のあり方を追求する新年(高城剛)
人生を変えるゲームの話 第1回<「負ける」とは「途中下車する」ということ>(山中教子)
任天堂の役割は終わったのか スマホでゲーム人口拡大を受けて(やまもといちろう)
初めての『女の子』が生まれて(やまもといちろう)
「モテる人」が決して満足できない理由(岩崎夏海)
本当の知性を育む「問いへの感度を高める読書」(岩崎夏海)
「残らない文化」の大切さ(西田宗千佳)
週刊金融日記 第287号<イケメンは貧乏なほうがモテることについての再考察、小池百合子は出馬するのか他>(藤沢数希)
能力がない人ほど「忙しく」なる時代(岩崎夏海)
競争法の観点から見たTwitter開発者契約の不利益変更とサードパーティーアプリ禁止問題(やまもといちろう)
もう少し、国内事業者を平等に or 利する法制はできないのだろうか(やまもといちろう)
石破茂さん自由民主党の新総裁に選任、からのあれこれ(やまもといちろう)
11月に降り積もる東京の雪を見ながら(高城剛)
津田大介のメールマガジン
「メディアの現場」

[料金(税込)] 660円(税込)/ 月
[発行周期] 月1回以上配信(不定期)

ページのトップへ