日中の緊張関係は文化で溶けるのか

中国人にとって、「村上春樹」は日本人ではない!?

村上がいちばん好きで、魯迅には反感を持っている

「全体にどこかもの悲しいような独特の雰囲気があって、なんとなく心惹かれるものがあるんですよね、村上春樹の文学には……」

上海市の中心部、「上海書城」という大きな書店にときどき足を運ぶという私の中国人の友人は村上春樹の大ファンだ。彼女は上海で独り暮らしをする趙さん(1978年生まれ、34歳)。故郷から離れ、孤独なOL生活を送るで、村上文学は心の拠り所になっているという。狭いアパートの一角には、村上春樹の書籍が何冊も置かれている。

趙さんによれば「中国の作家より村上春樹のほうがずっとおもしろいし、自分の気持ちにフィットする感じがするから好き」とのこと。趙さんの同世代の友人たちも、村上ファンは多いという。

湖南省在住の劉さん(25歳、女性、1987年生まれ)も、中学生のときに『ノルウェイの森』を読んで以来、大ファンになった。

「『ダンス・ダンス・ダンス』もよかったなぁ。行間にあふれる哀愁みたいなものに惹かれたんですね」と懐かしそうに振り返る。社会人になった今ではあまり読まなくなったそうだが、「村上春樹の世界は好きなジャンル」だと語る。

上海の復旦大学の王海藍さんは村上春樹を研究対象とする気鋭の研究者。村上春樹に傾倒して日本に留学し、「中国における村上春樹の受容」というテーマで、筑波大学で博士号を取得している。

「村上春樹は中国で非常に人気のある代表的な作家のひとり。主に10代後半から30代後半までの、都会に住む比較的エリート層の男女の読者が多いとされています。熱心に読書をするような層であれば、日本人作家、というだけの理由で彼を敬遠する人はほとんどいません。村上春樹は確かに日本人ではありますが、そういう目で彼を見ている読者はむしろ少ないでしょう」

ある国の文学界を支えてきた代表的な作家が、その国の若い作家に影響を与えるのとまったく同じように、日本人作家・村上春樹の影響を受けたという若い中国人作家も次々と出現している。ベストセラー作家の郭敬明や韓寒などがそれだ。彼らは2人とも日本で翻訳本を出版している。

中でもイケメンで知られる郭敬明は「いかにも村上春樹の影響を受けた作家」と形容されたこともあり、彼はかつて堂々と「村上がいちばん好きで、魯迅には反感を持っている」(重慶晩報=四川省の夕刊紙)と中国のメディアに答えたことさえあった。

韓寒も中国で個性的なタレントを持つ作家という位置づけであり「サイン会はしない、講演はしない、パーティーには参加しない」など独自の主義を貫いている。信念を貫いて独自の世界観を持ち、カリスマ性があるという点では、韓はどことなく作家として村上を意識しているのでは、と想像させる。

1 2 3 4 5

その他の記事

終わらない「レオパレス騒動」の着地点はどこにあるのか(やまもといちろう)
「+メッセージ」はBot時代への布石だ(西田宗千佳)
レストランからバルへ、大きくかわりつつある美食世界一の街(高城剛)
「モノ」と「場所」に拡張していくインターネット(高城剛)
カタルーニャ独立問題について(高城剛)
世界中の未来都市を訪れて気付いた良い街づくりの必要条件(高城剛)
「見て見て!」ではいずれ通用しなくなる–クリエイターの理想としての「高倉健」(紀里谷和明)
幻冬舎、ユーザベース「NewsPicks」に見切られたでござるの巻(やまもといちろう)
週刊金融日記 第287号<イケメンは貧乏なほうがモテることについての再考察、小池百合子は出馬するのか他>(藤沢数希)
空港の無償wifiサービス速度が教えてくれるその国の未来(高城剛)
自分の「生き方」を職業から独立させるということ(紀里谷和明)
中国発・ソーシャルゲーム業界の崩壊と灼熱(やまもといちろう)
フィンランド国民がベーシック・インカムに肯定的でない本当の理由(高城剛)
安倍政権「トランプ接待」外交大成功ゆえに、野党に期待したいこと(やまもといちろう)
ヒットの秘訣は「時代の変化」を読み解く力(岩崎夏海)

ページのトップへ