日中の緊張関係は文化で溶けるのか

中国人にとって、「村上春樹」は日本人ではない!?

3歳違えば価値観が異なる中国人

彼女は、ちょっとおもしろいことも分析してくれた。

「でも、不思議なことに、私より少し上と少し下の世代は読んでいる人が多かったんですよね。理由はよくわからないですけど、私の上下の学年は就職氷河期で、大変な時代だったんです。本当に1~2年しか違わないんですけどね。自分が置かれている境遇の変化によって、村上春樹を読みたくなったり、読みたくなくなったりするのかもしれません」

このように、読者の声を深く分析してみると、中国の中でも、ほんの数歳の年代差によって村上観はかなり異なることがわかる。「村上春樹はとても人気がある」と言っても、それは「中国人」どころか、「中国の若者」の傾向を表すものではない。

以前、私が著書『中国人エリートは日本人をこう見る』(日経プレミアシリーズ)の取材していたとき、ある中国人の若者がこんなことを漏らしていたことがあった。

「中国は急激に変化したため、3歳違えば価値観が大きく異なり、同世代でもまったく意見が合わない。変化が激しすぎて、ひとつのジェネレーションとして、同じものを見て懐かしがったり、共感したり、同じ価値観を共有したりできないのは残念で寂しいこと。こうした気持ちは、世界中のどんな国の人にも理解してはもらえないだろう」

世界に類を見ない経済成長を果たすのと同時に、さまざまな社会問題を抱える中国。日中関係が悪化しようが、改善されようが、変わりなく、今後も中国人の間で村上春樹は読み継がれていくだろう。ひとつの文化が国境を越え、他国に浸透していくことは意味のあることであり、これこそ文化の神髄といえる。

しかし、そのことと現在の日中関係が抱える問題が解決することとは、かなり距離があるのではないか。

少なくとも「村上春樹」はすでにいわゆる世界的ベストセラー作家であり、「日本の作家」と認識されていない。また、文芸作品に限らず、世代が細分化されている中国においては、ある文化作品によってどこかの世代をまるごと味方につけることにはつながらない。

文化交流は必要である。しかし、日中関係はそれだけで解決するほど単純な問題ではないことも事実だろう。

1 2 3 4 5

その他の記事

21世紀に繁栄するのは「空港運営」が上手な国(高城剛)
中央集権的システムがもたらす「あたらしい廃墟」(高城剛)
人生を変えるゲームの話 第2回<一流の戦い方>(山中教子)
週刊金融日記 第291号【SegWit2xのハードフォークでまた天から金が降ってくるのか、日経平均は1996年以来の高値にトライ他】(藤沢数希)
あらためて「アメリカ放題」を解説する(西田宗千佳)
「常識」の呪縛から解き放たれるために(甲野善紀)
「ブロマガ」はプラットフォームになり得るのか(小寺信良)
『寄生獣・完結編』の思わぬ副産物/『幕が上がる』は和製インターステラーだ!ほか(切通理作)
ネットも電気もない東アフリカのマダガスカルで享受する「圏外力」の楽しみ(高城剛)
廃墟を活かしたベツレヘムが教えてくれる地方創生のセンス(高城剛)
週刊金融日記 第274号 <小池百合子氏の人気は恋愛工学の理論通り、安倍政権の支持率最低でアベノミクスは終焉か他>(藤沢数希)
優れた組織、人材でも、業界の仕組みが違うと途端に「能無し」になってしまう話(やまもといちろう)
国家に頼らない「あたらしい自由」を目指すアメリカ(高城剛)
暗い気分で下す決断は百パーセント間違っている(名越康文)
クリエイターとして成功したければ本を捨てろ(岩崎夏海)

ページのトップへ