「親しみ」は偏見を共有することによってつくるもの
「親しみ」とは何か。僕の中でもまだ十分にこなれていない言葉なんですが、誤解を恐れず言うなら、「偏見を共有しあう人とともにつくる、温かみのある空気感」だと思うんです。
ここでいう偏見というのは「価値観」とか「先入観」というぐらいの意味です。あえて「偏見」という言葉を使うのは、「親しみ」というのは別に「神のように公平で、慈愛に満ちた態度」といった大上段に構えたものではないことを強調したかったからです。
たとえ意見が自分と違っていたとしても、「まあそれはそれとして、あなたと話していると楽しいね」「あなたのことが好きですよ」というのが、「親しみ」という言葉で僕が言いたいことです。これってよくよく考えると、“偏見”なんですよね。だって、それは言葉を交わす前に、無意識的に、先入観として生じるものですから。まったく公平ではないし、主観的なものです。
でも、「この人と話しているとどういうわけか楽しいね」という“偏見”を互いに共有することができれば、対話そのものが自然に動きはじめ、思わぬものが生み出されるんです。冷静に見れば互いに真逆のことを話していたり(笑)、論理がさほどかみ合っていないように見えても、親しみのある空間ではどういうわけか、オリジナルでクリエイティヴなものが生まれてくる。
逆に言えば、言葉を発信し、受け取る場に参加するメンバーが、互いに相手を操作しようとしたり、利用しようとしたり、あるいはやっつけようとするような“偏見”を持っていたら、対話はまったくクリエイティヴなものになりません。相手の言葉尻を捉えて、その定義をその人の使い方からわざとずらしちゃうようなことをしていると、どんどん言葉の射程距離が短くなっていくだけなんですね。
そういう偏見を共有した「親しみ」という土壤を育て、そこで対話することによってはじめて、僕らは何かクリエイティヴなものを育てることができるということだと思うんです。政治談議の場にそれを期待したいところですが、まずは僕らの身近なところから、「親しみ」を育てることを、始めてみませんか。
少なくとも「親しみの空気」のない論争は不毛だということを、「常識」にしませんか。
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『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』
著者: 名越康文
1575円(税込)
出版社:夜間飛行
単行本:四六判ソフトカバー 208ページ
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内容紹介
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