驚きとは、システムのほころびを愛でること
驚きとはいわば、「意識と無意識の間に張られた糸が震える音」です。
意識を「システム化された世界」、無意識を「システム化される以前の世界」と言い変えれば、僕らが高度にシステム化された世界を生きる中で「驚き」を失ってきたことがわかります。そもそも、「社会をシステム化していく」というのは、社会から驚きの契機を奪っていく、ということにほかならないのです。
でも、ここがおもしろいところで、どれほど社会をシステム化しようとしても、人間のやることである以上、必ずそこに綻びが生じる。むしろシステム化すればするほど、システムはときに大きく崩れる危険をはらんでいくわけです。
その瞬間、システム化された世界とシステム化される以前の世界の間に張られた糸が「ビィィイン!」と鳴る。その音を耳にした人の心に生まれるのが「驚き」です。
つまり、驚きというのはシステムの崩壊を察知したときに生じる感覚であり、「驚く力」とは、その「音」にどれだけ注意深く耳を澄ませられるかということだといえます。これは、いまの高度にシステム化された社会の中で、僕らがどう生き抜くかを考えるときには避けることのできないキーワードです。
ではどうやって「驚く力」を取り戻していくか。多くの表現者が取り組んでいる課題は、実はそれだと僕はとらえています。そういう目でみると例えばビートたけしさんが『アウトレイジ』『アウトレイジビヨンド』で過剰な暴力を描くのも、松本人志さんが『R100』で、極端なSMの世界を描くのも、極限までシステム化された世界にどう対抗していくかという課題に対する模索であるように僕には思える。
彼らはおそらく、人間の感情の根幹である「共感」までもがシステム化されてしまう社会に息苦しさを感じ、危機感を抱いている。そして、そういうシステムから自由になるためには、「驚く」ということ、すなわち、瞬間的に「心」を崩壊させる必要がある、ということなんだと思うんです。

その他の記事
![]() |
古都には似つかわしくない最先端の「現代日本語」講座(高城剛) |
![]() |
これからの数年間は本格的な動乱期に入る前の最後の準備期間(高城剛) |
![]() |
まだまだ続く旅の途中で(高城剛) |
![]() |
感性のグローバリゼーションが日本で起きるのはいつか(高城剛) |
![]() |
本当に今、自分は仕事を楽しめているだろうか?(本田雅一) |
![]() |
楽しくも儚い埼玉県知事選事情(やまもといちろう) |
![]() |
超人を目指す修行の日々(高城剛) |
![]() |
『好きを仕事にした』人の末路がなかなかしんどい(やまもといちろう) |
![]() |
『時間の比較社会学』真木悠介著(Sugar) |
![]() |
自然なき現代生活とアーユルヴェーダ(高城剛) |
![]() |
ドラマ『ハウス・オブ・カード』〜古くて新しい“戦友”型夫婦とは(岩崎夏海) |
![]() |
夜間飛行が卓球DVDを出すまでの一部始終(第3回)(夜間飛行編集部) |
![]() |
私の武術探究史の中でも記憶に残る技法ーーDVD『甲野善紀 技と術理2016―飇拳との出会い』(甲野善紀) |
![]() |
夏の京都で考える日本の「失われた150年」(高城剛) |
![]() |
「テレビに出ている若手ロシア専門家」が古典派ロシア研究者にDISられる件(やまもといちろう) |