※この記事は、メールマガジン「ほぼ日刊惑星開発委員会 2014.6.5 vol.086
過疎化する地方でタクシーが果たす使命ーー日本交通・川鍋一朗が描く「交通」
の未来」に掲載されたものです。
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日本交通株式会社・代表取締役社長の川鍋一朗――ビジネス雑誌などを読む人にはよく知られた人物だが、「ほぼ惑」の読者には知らない人が多いかもしれない。
慶応大学経済学部卒業後、マッキンゼーに入社。その後、1900億円の負債を抱えた老舗タクシー会社「日本交通」を創業家の三代目として受け継ぎ、見事に会社再建を果たす。一方で、タクシーを呼べるアプリ「日本交通タクシー配車アプリ」を開発するなど、新たな手法でタクシー業界の次の姿を切り拓いてきた。
PLANETS編集部は今回、川鍋社長に日本交通本社でインタビューを行った。uberなどのタクシー配車アプリが途上国を中心に爆発的に伸びている状況で、「タクシー」という雇用のセーフティネットとしての機能を持つ業界がいかに対応していくべきか。そして、タクシーと切り結んだ、未来の地方社会における「交通」の新たな姿とは。宇野と川鍋氏が、「タクシー文化」の現代における可能性について語り尽くした。
「拾う文化」から「呼ぶ文化」へ
宇野 今日は単刀直入に、川鍋さんに一つお伺いしたいことがあるんです。まず、川鍋さんは、否応なく変わっていかざるを得ないタクシー業界にかなり強く介入されていますね。
川鍋 そうですね(笑)。
宇野 そのとき、川鍋さんはタクシー業界をどこに導こうとしているのか。例えば、あちこちのインタビューで、「これからはタクシー業界そのものが生き残りをかけなければいけない。流しのタクシーを拾う文化から、タクシーを呼ぶ文化に変えなきゃいけない」と仰られていますね。
川鍋 タクシー業界は一昨年100周年を迎えたのですが、まさに102年目にして「選べる時代」にさしかかりつつあるという認識です。まだ売上のボリュームでは都内のお客様の2割程度ですが、そういう能動的な方がどんどん増えています。当社の売上に関して言えば、10年くらい前は積極的にウチを選ぶ人は3割くらいだったのが、既に半分以上です。
こういう施策は、もちろん会社の競争としても必要で、アプリのその一環です。あれはSUICAを導入したり、慶應病院の前で待つタクシーをウチにしてもらったりするのと同じ”シェア拡大策”の一つなんです。
宇野 ただ、その背景には、明らかに世界的な流れがありますよね。現在、日本交通のアプリのようなGPS機能と連動してタクシーを呼べるアプリは、外国でも大きなインパクトをもちはじめていますよね。もちろん、途上国やアメリカと日本のタクシー事情は社会的な条件が大きく違うとは思うのですが。
川鍋 我々はアプリ専業の会社ではないので、あくまでもタクシー事業者としてのアプリ運営でしかありません。ウェブサービスで言えば、「食べログ」というよりは「ぐるなび」に近くて、あくまでも事業者の効率的運営のサポートが目的であり、お客さまにとってのタクシーの価値を上げるためのものなんです。
それに対して、IT事業者の運営する、例えばuberやHailoのようなアプリは目新しいシステムではあるのですが、タクシー事業者にとってはマージンを失うものなんです。それでは産業全体として地盤沈下してしまい、お客様に新たな価値を届けられなくなります。しかも、多くのアプリは既存のタクシーを呼びやすくしているだけなのにマージンが10-15%ですから、我々にとっては払えるレベルではないんですよ。せいぜいクレカの手数料の3-4%が、事業としての限界なんです。
だから、産業という側面からすると、自分たちでやった方がいい。まずタクシー産業発展のために利益をしっかり確保しようという視点で、スマートフォンのアプリを広げています。いまは全国で120社くらいと提携していますね。
宇野 川鍋さんの仕事を見ているとタクシー業界が受動的に待つお客さんではなく、能動的なお客さんを今よりもつかまえるようになっていくんだなと思うんです。
その結果、ニーズが細やかになっていき、対応力も備わっていくでしょう。しかし同時に、必ず差別化が行われていくので、それに対応できる業者だけが残っていくことになる。だから、おそらくはタクシー全体の台数は減るのではないでしょうか。
川鍋 例えば、いま日本交通には5万台のタクシーがあるんですけれど、常時出動している5万人の運転手の生活を支えるコストは、「5万人×年収」の掛け算です。それを現在のタクシーへのニーズで割ったのが、現在の料金ですよ。ということは、台数を半分にすれば、初乗り500円くらいになるわけですね。
でも、そうなると今度は金曜の夜にはどこも乗車中だったりして、アベイラビリティの面での不便が出てくるでしょう。もちろん、「タクシーの料金は高いよね」という議論はしていて、料金を下げる方法は他にもいくつかあるのですが、結局はバランスの問題なんですよ。