日本交通・川鍋一朗が描く「交通」の未来

過疎化する地方でタクシーが果たす使命

インターネットは地方を変えるのか

宇野 それにしても、僕は今日の川鍋さんの話で、久しぶりに「地方にとっての武器」としてのインターネットという発想を忘れていたことに気づきました。

実はインターネットが出始めた頃、最初に変わったのは郊外の消費生活だったんです。その次に変わったのが、先ほども話したように都市生活ですね。その結果、インターネットが地域の壁を超えて面白いことができるものだということを忘れてしまっていたように思いました。

川鍋 僕がインターネットに感じるパラダイムシフトは、「正しくちゃんとやっている人」が埋もれずに浮かび上がってくることですね。食べログがまさにそうですが、タクシーでも事後評価で変な運転手だとかを排除していくことができるわけでじゃないですか。もちろん、万が一の事故のことを考える必要はありますが、事前に絞りこまずにわかるようになったのは、最近のAirbnbのようなサービスも含めて、シェアリングエコノミーのコアになる価値だと思います。

ウチもそういう体制がしっかり作れたら、みんな集まってわいわいやりながら、地方のどこかで上手くハマった瞬間に、ガーッと広がっていくはずなんです

宇野 みんなが、「この手があったか!」と気づく瞬間がありそうですね。いま、過疎の地域への対策を話すときに、自発的な努力で支え合っていくようないい話が好まれるんです。もちろん、それは素晴らしいことですが、現実はそんなスムーズな話ではないですよ。結局、なんらかの産業構造や仕組みがなければ維持はできないんです。

川鍋 ただ、この話はいきなり100億円のバリュエーションがついて創業者が儲けられるという類のものではないので(笑)、残念ながら知恵のある人が入ってきてくれないんです。もちろん、私の場合は、タクシーの次の姿が見えた以上、自分でやりたいのですが……。

宇野 川鍋さんは、”気づいてしまった”わけですね。

個人的には、自治体と組むのが一番メリットが大きいと思いますね。それこそ、佐賀県とかはいいと思いますよ。古川知事は「佐賀は車しかない。コンパクトシティも電車も無理だ」と言ってましたから。

川鍋 佐賀県知事の古川さん、それから今度変わるであろう滋賀県の三日月さん、岡山の伊原木知事、広島の湯崎知事……このあたりの方は圧倒的に感覚が若いです。そういう知事の方と連携がとれる市長がいる地域がいいですね。そこにウチの部隊が足を運んで一緒にやれたら、相当なことが可能になると思うんです。

ちなみに、いまウチで圧倒的に足りないのは技術者なんですよ。ソーシャルゲーム業界で1500万円だとかを提示されているような人に、はるかに安い金額で過疎地に行ってもらうというのは、なかなか大変です(笑)。もちろん、そういう人を引きこむのは私の役割で、いま必死にいろんな人を口説いていますが……。だから、私は楽天の尾原さんの周囲に会いに行って、そうした業界の人たちに「日本交通は面白そうなことをやってるんだ。日本交通に行くのは、技術者としてちっとも恥ずかしいチョイスじゃない」と伝えているんです(笑)。

宇野 正直に言って、僕も尾原さんの会合で会わなければ、川鍋さんに取材しようとは思いませんでした。

川鍋 そう思われてるんですよね(笑)。

私のマッキンゼーの先輩に堂前さんという人がいるのですが、彼がまだ全く有名じゃなかった頃のユニクロに行ったとき、周囲から「もっと良いところなかったの?」と言われていたんです。でも、いまや彼はユニクロの常務ですよ。彼みたいに、僕たちのような会社に賭けてくれる人を採用しなければいけない。

宇野 川鍋さんは「こうすると最適化できます」とか「上手く回ります」とかいう話ではなくて、もっと今日のようなお話を社会問題へのポジティブな提案として発言されるの素敵だと思います。

実際、ここまで川鍋さんが話されたことは、実は「ビジョン」なんだと思うんです。それを面白いと思ってくれる自治体や市民は、きっと少なくないと思いますよ。実際、僕自身も蒙を啓かれたところがあります。今日は、本当にありがとうございました。

(了)

※この記事は、メールマガジン「ほぼ日刊惑星開発委員会 2014.6.5 vol.086
過疎化する地方でタクシーが果たす使命ーー日本交通・川鍋一朗が描く「交通」
の未来」に掲載されたものです。

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