「ところで細井部長、わたくしはどちらの部長職を拝命するのでしょう?」
「まあまあ、辞令を読みたまえ」
辞令の下には、聞いたことのない会社名が印刷されている。
「連合ユニオンズ......? こんな会社、うちのグループにありましたっけ」
「何を言うとるんだ、来月頭に設立される新会社だよ。君はそこの管理部長、つまり、 管理部門の事実上の総責任者というわけだ。新会社の概要については、平野さんから説明していただこう」
ニコニコ顔から一変、厳粛な調子で平野が切り出した。
「横須賀ベイブルースは君も知っとるだろう?」
「ああ、あの万年Bクラスで、 90敗前後をいったりきたりしているボロ球団ですよね。 ぼく、実家が横須賀なんで中学の頃はファンでしたよ。野球少年でしたし」
「そう! それを見込んで君にお願いしたいのだよ。実はね、このたび我が連合は、 横須賀ベイを買収することを決定したのだ。ついては、フロントの裏方の責任者を君に一任したい」
「えええ!? そ、そんなこといったら、平野さんなんて甲子園出たことあるし、野球大好きじゃないすか。僕なんかよりよっぽど適任ですよ」
「いや、僕は野球ファンじゃなくて巨人ファンだから」
「というか、なんで労組がプロ球団なんて保有しなきゃならんのですか(※2)。畑違いにもほどがありますよ」
「それなんだがね。今、日本が世界に誇る終身雇用が危機に瀕しておるのは、君も知っているだろう。年々下がる賃金カーブに、非正規雇用比率。若年層の離職率も高止まりしたままだ。とくに最近は一部の過激な雇用流動化論者(※3)が、我々を名指しで批判し、経営サイドの一部にもそれに迎合する向きがある。そこでだ」
平野はぐっと身を乗り出した。
※2 労組がプロ野球なんて/野球協約第 条によると、プロ球団のオーナー資格は「資本総額一億円以上の日本の株式会社」となっており、子会社を新たに設立することで連合も参入可能である(実際に連合には資本金1億円で100%出資の人材派遣会社がある)。
※3 一部の過激な雇用流動化論者/筆者(城)や経済学者など(マルクス経済学者を除く)。ぜんぜん〝一部〞ではない。
その他の記事
400年ぶりの木星と土星の接近が問う「決意と覚悟」(高城剛) | |
『小説家と過ごす日曜日』動画版vol.001<IRA’Sワイドショー たっぷりコメンテーター><恋と仕事と社会のQ&A>(石田衣良) | |
観光バブル真っ直中の石垣島から(高城剛) | |
「親しみの空気」のない論争は不毛です(名越康文) | |
なぜ、日本人はやりがいもないのに長時間労働で低賃金な仕事を我慢するのか(城繁幸) | |
2023年は「人工知能」と「公正取引」の年に(やまもといちろう) | |
「朝三暮四」の猿はおろかなのか? 「自分の物語」を知ることの大切さ(福岡要) | |
人としての折り返し地点を見据えて(やまもといちろう) | |
意外とまだマイナー!?「二段階認証」をおさらいする(西田宗千佳) | |
ヘヤカツオフィス探訪#01「株式会社ピースオブケイク」前編(岩崎夏海) | |
世界のクリエイターに愛されるノートの物語(ロバート・ハリス) | |
自民党、まさかの派閥解消からの安倍派処分の強硬手段で政治資金ネタを有耶無耶にしてしまう(やまもといちろう) | |
「歳を取ると政治家が馬鹿に見える」はおそらく事実(やまもといちろう) | |
政府の原発ゼロ政策はなぜ骨抜きになったのか(津田大介) | |
アジアの安全保障で、いま以上に日本の立場を明確にし、コミットし、宣伝しなければならなくなりました(やまもといちろう) |