眼を閉じて、10年後の自分を思い浮かべてみてください。
「責任ある仕事を任され、安定した収入を得ている」そんな自分を明確にイメージすることができますか?
「さすがに失業している……ってことはないだろう」と思ったあなたは、日本の雇用環境についての見通しが少し甘いかもしれません。
人事部門には、「人材は職場環境で作られる」という格言があります。確かに、環境は人を変えます。でも、その環境を変えるのもまた人であり、その人自身の心の持ちようです。
さて、あなたは10年後に仕事で困らないために、今、どんな心構えで、何を準備すればいいのでしょうか。
この本では、「もし日本労働組合総連合会(連合)がプロ野球チームを保有して、全選手を終身雇用にしたら何が起こるのか」を細かくシミュレーションしました。そこには多くの日本人が見落としている「雇用の真実」を見つめるヒントが詰まっています。
「ありえないこと」が普通に起こる激変の「10年後」の世界で力強く生き残る方法、お伝えします。
2014年6月 城繁幸(人事コンサルタント)
【第1話】日本型雇用の未来は君の肩に……
その日、いつものように、山田明男は神田駿河台にある連合本部に出勤した。タイムカードを切って、コーヒーを買って席につき、アンケートや各種会報やらの整理をする。5年間、変わってない日課の繰り返しだ。
ただ、今日はいつもと違うことが一つだけあった。夜、出向元の上司と連合事務局長(※1)との三者面談がセッティングされているのだ。結構高そうな料亭だから、これは人事異動に関する話とみて間違いない。
だいたい、一席設けてくれるということは、おめでたい話を持ってきたということだ。稀に悪い話のこともあるけれども、5年も出先で頑張った自分に対してそれはないだろう。
「会社に戻るのは間違いないな。ひょっとすると、復職と同時に課長なんてこともあるかも」
山田は元々、親会社である日の丸電機の総務畑出身だ。「前任が退職するから」という理由で出向させられて、はや5年。正直、仕事はラクで居心地はいいのだが、本 音を言うと、 歳なのでそろそろ復職して課長になりたい年頃でもある。生来ののんびり屋ではあるが、5歳年下の後輩が課長に昇格したと聞いて、さすがに焦りのようなものも感じている。だが、それも今夜で終わるだろう。
「山田、おめでとう! 部長昇格の辞令だよ」
料亭の一室。満面の笑みを浮かべて、日の丸電機・総務部長の細井正人が辞令を差し出す。
「え!? ぶ、部長ですか!? いきなり課長飛び級で部長とは......今日まで会社を信じて頑張ってきた甲斐がありました」
「山田君、君の5年間の活躍には心底感謝しとるよ。私の方からも、日の丸電機さん にはよろしく伝えておいたから」
事務局長の平野啓司もいつもと違ってニコニコしっぱなしだ。
※1 連合/日本労働組合総連合会の略称。電機連合や自動車総連を傘下にもつ日本最大の労働組合で、組合員数は675万人に上る。基本的に正社員の労働組合ではあるが、マスコミが派遣切り等の非正規雇用問題を扱う際にはなぜか労働者代表としてアテンドされる。
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