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岩崎夏海の競争考(その14)怒って相手から嫌われることのメリット
人間万事塞翁が馬
怒ったり、短気で相手から嫌われたりすることには、大きく二つのメリットがある。
一つは、自分に対してのハードルが上がること。ぼくは、座右の銘を聞かれると必ず「人間万事塞翁が馬」と答えることにしている。それは、これまでの人生の中で、そのことをつくづくと感じたからだ。
40歳になるくらいまで、ぼくはほとんど「幸せ」を感じずに生きてきた。幸せを感じたのは、小学生の一時期と、20代後半に最初の結婚をしていたときくらいだった。それ以外は、ずっと不幸を感じながら生きていた。
なぜ不幸を感じていたかといえば、周囲に嫌われていたからだ。なぜ嫌われていたかといえば、感情的で、短気だったからだ。他人の気持ちを考えることはまずなくて、自分の短絡的な感情に従って生きていた。だから、怒りっぽいのはもちろん、喜怒哀楽のあらゆる感情が豊かだった。よく笑い、よく泣いた。
しかしそれゆえ、周囲と上手く関係を取り結べなかった。これがつらかった。ぼくは、周囲と上手く関係を取り結びたかった。一方で、ぼくの直感的な考えに抗って、周囲に迎合するのもまた嫌だった。ぼくは、その板挟みに苦しんだ。そうして、何とか周囲に、ぼくが直感的に感じていることを分かってもらおうとした。それを理解してもらうべく、伝えようと努力したのだ。
嫌われることがもたらしたもの
そのことが、ぼくの表現力を向上させるのにどれだけ寄与したか知れない。話し方が上手くなったのはもちろん、話す内容も分かりやすくなった。文章も分かりやすくなり、イラストなど絵を描く技術も向上した。
また、論理的な考え方も身につけられた。ぼくは「人は論理的な考え方に説得されやすい」というのを知ってから、「いかにものごとを論理的にとらえるか」ということに注力してきた。その結果、論理的な思考力が大幅にアップしたのだ。
また、それに伴ってものごとを概念化したり、客観視したりするスキルも身につけた。例えば、この項で述べていることもそうなのだが、ものごとを「俯瞰」で見られるようになった。
ぼくは、人生のほとんどを「不幸」と感じながら生きてきた。しかしそのおかげで、いくつかの能力が飛躍的に向上した。この二つの間には、明確な相関関係があった――そうとらえられるようになったのは、自分の人生を俯瞰で見られるようになったからだ。つまり、自分の能力が不幸によって培われたと理解できたのも、自分が不幸だったからなのだ。人生はまさに「塞翁が馬」で、不幸というのは、能力が向上することの大いなるきっかけとなるのである。
だから、よく「ものごとを前向きにとらえろ」という人がいるけれど、ぼくはそれには全く反対なのである。なぜなら、もしものごとを前向きにとらえていたら、能力を向上させるきっかけを失ってしまうからだ。もしぼくがものごとを前向きにとらえられていたら、ここまで能力を向上させられなかったであろう。
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