【対談】やまもといちろう×茂木健一郎

小保方問題、ネトウヨとの絡み方などなどについて茂木健一郎さんに直接ツッコミを入れてみた

茂木:勘違いしてほしくないのは、僕はね、別に小保方さん支持じゃないんですよ。テレビのお笑い番組で放送するかどうかでもめる前から、小保方さんをネタにしたコントを作ってyoutubeで流したり、バカンティ教授は略して「バカ教授」でいいんじゃないの? なんて言っていたくらいです。でも、それとこれとは別なんです。「大学の自治をどこまで尊重するか」といった判断はあくまでも冷静な観点からするべきだと思うんですよ。

 

山本:そこは従来のフレームワークを大事に思うかどうかだと思うんです。つまり、大学における評価の仕組みの成り立ちや、優秀な学生を選抜するための定型的なメジャーを信用するかしないかの差だと思う。

 

茂木:僕は大学のそういうメジャーをまったく信用していないんです。

 

山本:私はいくら私学と言えども、大学のように公共的な性格を持つ組織である場合、納得性のある基準を建前上もっておかないとまずいんじゃないかと思うんですよ。

 

茂木:僕は、むしろ同一基準をあてはめるのが絶対におかしいと思う。「リバタリアン」的な世界観は、もちろん行き過ぎてしまえばマズいけれども、ある程度は許容すべきだと思っている。日本って、本当の意味での「自己責任」を持たせてくれない社会という気がするんですね。「それぞれ個人がやりたいようにやって、競争して、結果としていいものが残る」というのがいいんじゃないかと思う。

 

187A8796sm山本:ある程度「自己責任」を持ってもらうことが重要なのはもちろん個人的には分かるんですけど、今の日本の議論では「自己責任」ってわりと本質から外れた脇におかれているところがありますよね。私はアナーキズムやリバータリズムから遠い保守主義者ですが、しかし社会全体の問題を解決するためには私も含めた構成員一人ひとりの犠牲や献身は必要だと思っていて、現にいまの日本での議論においては「一体的な社会保障をしなければ」「税体制における若い世代の負担の比重を下げなければ」「少子化を解決しなければ」というほうに重点がおかれている。それはそれで悪く無いと私は思っているんですね。

というのも、「自己責任」という言葉は、困った個人に対して国が「それは自分でなんとかしてください」というときに都合よく使われてしまうケースもあると思うんですよ。これからの日本社会にはあきらかな衰退が待っていて、みんなが平等にごはんを食べられないような社会に近づいていかざるを得ない。いままでは、老後まで国が責任持って面倒を見ます、と言っていたのが、人口のバランスも経済状況もおかしくなって、その保証が怪しくなってきた。なので、余裕がないからと水準を引き下げるとどこかで必ず割を食う人が出る、それもシングルマザーや身寄りのない老人のような、弱いところにしわ寄せがどうしても行ってしまう。

そうなったときに、「自己責任」という概念が前に出てきてしまうとまずいことが起きるのかな、という問題意識があるんです。「シングルマザー? 自己責任でしょ?」みたいな。

 

茂木:国がどんどん衰退している状況だからこそ、「パイを大きくするようなことをどんどんやるべきだ」と僕は思うんですよね。そして、そのためには、みんながもっと自由にものを考えなければいけないと思っているんですよ。

 

国力を引き上げるために何が必要か

山本:お話は良く分かります。自由にモノを考える上で、インターネット、とりわけツイッターやフェースブックは相応に役割を果たしていますね。

で、そのツイッターは、基本的には「言いっぱなしのメディア」ですよね。よほどの有名人でない限り、自分の意見や感想をつぶやいたところで、誰かからツッコミを受けて、「ちょっと過剰な意見だったかな」と調整されていくこともない。結局、強い意見にだんだん集約し、多様な意見は失われていっているという統計もすでに出てきています。だからこそ、一つの意見が過剰に増幅されていく側面がありますよね。そしてその増幅された意見が同調圧力になっていく。

兵庫県議会の野々村議員の「号泣事件」にしても、日本国民はちょっと面白がりすぎてしまった面はあると思います。実際、彼が社会復帰するのはかなり難しいでしょう。物事のよしあしを論ずる以前に、エンタメとして面白がりすぎてしまって、破壊的な影響を及ぼしてしまうのはちょっと問題なのかなと。

 

茂木:それは本当にそうだよね。

 

山本:小保方さん問題も、そのような側面があるのは間違いないので、そこは自重しなければいけなかったところもあるでしょう。さすがに、笹井さんの自殺問題で一気にネタとしての面白がられ方は消え去りましたが。ただ、「研究の捏造」といった問題に関しては、やっぱり曲がりなりにも科学を担ってきた人たちへの敬意や尊厳を考えれば、さすがにまずいと思うんですよ。それは実際「物事のよしあし」レベルの問題だと思うので。これがお咎めナシとなると、ほかの真面目に研究をしている研究者たちの立場が無くなりますよね。

 

187A8940sm茂木:ああ、僕はそこが理解できないんですよ。過去のシェーン事件(2002年に起こったアメリカ・ベル研究所のヤン・ヘンドリック・シェーンによる論文捏造疑惑)や常温核融合などのパターンを見ても、研究者本人は「捏造だった」とは認めていませんよ。僕はそれでいいと思っているんです。他の研究者が実験してみて再現できなければ、その研究は消えていくだけ。それでもういいじゃないですか。

「ほかの真面目にやってる研究者たちがどうのこうの」という議論が出てくる理由がわからない。彼女がユニットリーダーというポジションを得た経緯がダメだっていうのも、「どうしてみんなが同じプロトコルで職を与えられなくちゃいけないの?」と思う。「みんな同じ基準でやることが公平で正しい」という考えは、日本人の病気だと思ってるんですよ。偏差値教育もそうですけど。

 

山本:そう思われるのは、茂木さん自身が「跳ねてる」というか、ある種、ご自身の高い能力で研究活動で成果を挙げられ、様々なものを築き上げて、いまのポジションを得ているからなのでは、とも思いますけど。

 

茂木:今回の場合は、笹井さんの責任で小保方さんをリーダーに据えて研究をしていたわけですよね。それが成功だったか失敗だったかはともかく、僕にとってはそれ以上にもそれ以下にも思えないんです。

マイケル・サンデルは『Justice』(邦題『これからの「正義」の話をしよう』)の中でこんな議論をしているんですよ。「ハーバード大に、成績はまあまあだけど、家がお金持ちの家の子が入学を希望してきた。もし入れてくれたらビルをひとつ寄付すると言っている。その学生の入学をその条件を考慮に入れて判断することは正しいでしょうか」と。こういう議論があるということは、少なくとも選択肢としては、「あり」なんですよ。

そして僕自身、そういう経営判断をすること自体は「あり」だと思っているんです。もちろん、そういうことをやりすぎると、大学の評判が落ちますよね。今回の理研の話も、小保方さんを採用したのは理研の判断であって、そのことによって評判が上がったらそれでよかったし、落ちたのならしかたない。それ以上でもそれ以下でもないと思うんです。

 

山本:はい。ですから「理研の評判が落ちてしまったので、判断として間違っていたのでは?」という話をしているんです。仕方ない、で済ませることなく、もう少しできることはあったであろうし、現にいまもぐだぐだやっている現状は解決していかないと。

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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