宇野常寛メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」より

トランスフォーマー:ロストエイジを生き延びた、日本ものづくりを継ぐ者 ――デザイナー・大西裕弥インタビュー

※この記事は宇野常寛さんのメールマガジン「ほぼ日刊惑星開発委員会 2014.9.12 vol.157トランスフォーマー:ロストエイジを生き延びた、日本ものづくりを継ぐ者――デザイナー・大西裕弥インタビュー」のダイジェスト版です。

 

リアルなメカがロボットに変形する、という斬新なコンセプトを持ったタカラトミーの玩具、トランスフォーマー。2014年で30周年を迎える異例のロングセラーで、ハリウッドの映画第4作「トランスフォーマー・ロストエイジ」も公開されました。この世界中で大人気の日本発プロダクトは、果たしてどのように作られているのでしょうか。今回、PLANETS編集部と宇野常寛は葛飾のタカラトミー本社を訪ね、新進気鋭のトランスフォーマーデザイナー、大西裕弥さんにお話を伺いました。大西さんのデザイナーとしての美学から、日本のものづくりの文化と思想が見えてきます。

【司会・構成:池田明季哉】

大西裕弥(おおにし・ゆうや)
1984年生。2011年タカラトミーに入社、海外向けトランスフォーマーの企画と開
発を担当。トランスフォーマーデザイナーとして、年間20アイテム以上を手がけ
る。代表作は「ドリフト」「クロスへアーズ」「バンブルビー」。

■トランスフォーマーとは?
株式会社タカラトミーが発売している玩具ブランド。車のように現実に存在するさまざまなプロダクトがロボットに変形する。2014年で30周年を迎え、累計出荷数は5億個、販売地域は130カ国にも及ぶ大人気玩具。ハリウッドで映画化もされており、第4作目「トランスフォーマー/ロストエイジ」が絶賛公開中。

http://tf.takaratomy.co.jp/toy/

 

トランスフォーマーデザイナーという職業

――今日は大西さんに、トランスフォーマーとものづくりの美学について伺いたいと思って参りました。トランスフォーマーは世界中に展開されていて、今や知らない人がいないほどの存在感があるブランドです。これほどまでに世界に受け入れられているおもちゃが日本のデザイナーによって作られているということは、これからの文化やものづくりを考える上で、重大な意味を持っているのではないか、と考えています。

ですので今日は、トランスフォーマーというプロダクトの何がこれほどまでに世界中の人を惹きつけるのかを伺っていきたいと思っています。大西さんは近年トランスフォーマーのデザインを手がけているということなのですが、どういった部分を担当されているのでしょうか。

大西 僕は企画からデザイン、開発、そして金型のシミュレーション、さらには試作品をチェックして、生産に回すところまでを一貫してやっていますね。

――なるほど、それは要するにほとんど全てのプロセスに関わっているということですよね。おもちゃのデザイナーって「おもちゃの外見を絵に描いて決める」という部分だけを担当することがほとんどだと思います。デザイナーが企画から金型のシミュレーションまでしているのというのは珍しいですよね。

大西 普通、変形機構を除いた表層的なデザインなどに関しては外部に依頼したりもするのですが、僕は全部自分でやっています。僕を含めた8人ほどのチームで年間120体程度のトランスフォーマーの開発を行っているのですが、全員で制作プロセスのほとんど全般にわたって踏み込んで関わっていますね。

――トランスフォーマーって、ものすごく高度なプロダクトですよね。例えば車のトランスフォーマーだったら、実車のデザインがあって、それと全く異なる形状の人型のデザインがあって、それを繋げて実際に変形できるようにしないといけない。どのようにして実現されているのかずっと不思議だったのですが、デザイナーが全体のプロセスに関わっているからできるということだったんですね。

車をいかにして解剖するか

――実は僕、20年来のトランスフォーマーファンで、今日も私物のトランスフォーマーを持ってきているんです……。

これ、大西さんがデザインされたトランスフォーマー、「ドリフト」です! 世界で最も高級と言われるスーパーカー「ブガッティ・ヴェイロン」が、サムライをモチーフにしたロボットになめらかに変形します。個人的にはトランスフォーマー史に残る傑作だと思っています(笑)。

なぜかというと、このフロントグリルが車とロボットで共通なんですね。非常に細かい話のようですが、ここが重要だと思うんです。映画のデザインに忠実にするのであれば、車のグリル部はダミーと割り切って、ロボットのグリル部を専用のパーツにした方がいいはずだし、構造上はそれが可能です。にも関わらず、敢えてダミーパーツを使わず、共有のパーツを使っている。僕はこのことにすごく驚いて、これを作ったデザイナーさんは絶対に、確固たる美学と思想に基づいてデザインをされていると思ったんですね。

ドリフトの変形プロセス。複雑に見えるが、手に取ると意外にも直感的でわかりやすい。車のフロントグリルがそのままロボットの胸部になっているのがわかる。

 

大西 こんなマニアックな取材は初めてですよ(笑)。ありがとうございます。

宇野 ちょっと僕のほうから聞いてみたいのは、例えば二次元で変形を考えるのと、実際に三次元にしたときにかっこよく変形させるのでは、使う脳がぜんぜん違う気がするんです。「この車をロボットに変形させるときには、このパーツをどこに配置しよう?」というようなことから考えていくんでしょうか。

大西 最近は映画のトランスフォーマーのデザインをすることが多いのですが、映画の変形シークエンスは全てCGで作られていて全く再現が不可能なので、そこはほぼ無視しています。

▲劇場最新作「トランスフォーマー・ロストエイジ」の変形プロセスを含む予告
編。15秒あたり、55秒あたりがわかりやすい。

 

その上で、元々の素材の象徴的なパーツを中心に変形を考えていきますね。例えばこのドリフトであれば、このフロントグリルのパーツが象徴的だったので、この部分を胸のパーツにしてやろう、というところからデザインをスタートしていきました。

実車も参考にしたいところなのですが、ブガッティ・ヴェイロンは2億円以上するのでさすがに無理でしたね(笑)。でも仮に実車が見られなくても、海外のおもちゃメーカーでライセンスを取って実車に忠実につくっている模型は必ず買って参考にしています。モチーフが動物であれば動物園に行ったりもしますし、元の素材をしっかりと観察するということは大切ですね。

宇野 なるほど、解剖学的なところがあるわけですよね。車を本来の構造とは別の方法でこんなにバラバラにしている人って、世界中でトランスフォーマーのデザイナーしかいないかもしれないですね。

▲大西さんの開発画稿。車に分割線が引かれている。

 

1 2 3

その他の記事

幻冬舎、ユーザベース「NewsPicks」に見切られたでござるの巻(やまもといちろう)
アマチュア宇宙ロケット開発レポート in コペンハーゲン<前編>(川端裕人)
暗い気分で下す決断は百パーセント間違っている(名越康文)
高城剛のメルマガ『高城未来研究所「Future Report」』紹介動画(高城剛)
イタリア人にとっての「13日の金曜日」(高城剛)
あまり語られることのないエストニアが電子政府に向かわざるをえない本当の理由(高城剛)
失ってしまった日本ならではの自然観(高城剛)
気候変動が影響を及ぼす人間の欲望のサイクル(高城剛)
ドラッカーはなぜ『イノベーションと企業家精神』を書いたか(岩崎夏海)
俺たちの立憲民主党、政権奪取狙って向かう「中道化」への険しい道のり(やまもといちろう)
ネットとは「ジェットコースター」のようなものである(小寺信良)
最近ハゲ関連が熱い、あるいは新潟日報と報道の問題について(やまもといちろう)
コロナ禍以前には戻らない生活様式と文化(高城剛)
除湿、食事、温灸……梅雨時のカラダ管理、してますか?(若林理砂)
寂しい気持ちとの付き合い方(家入一真)

ページのトップへ