宇野常寛「ほぼ日刊惑星開発委員会」より

睡眠時間を削ってまで散歩がしたくなる、位置情報ゲームIngress(イングレス)って何?

「何をしていいか分からない」から始まる、発見のゲーム

さて、最初にゲームをスタートさせた時には、何をしていいのか分からないエージェントが大半だろう。説明もマニュアルも英語であるため、最初の一歩のハードルが非常に高いゲームだ、けれども進めていくうちに、「現実の世界を舞台にした巨大なRPG」のような体験をしていくこととなる。そして最終的には、自分ひとりだけのストーリーが組み上げられていってしまうのが、このゲーム最大の魅力だ。

Ingressのキャッチフレーズは、"The world around you is not what it seems." (あなたの周りの世界は見えたままとは限らない)。東京中心部に住む僕がまずプレイを初めて驚いたのは、街中に存在するPortalの多さだ。神社やお寺、歴史的建造物、石碑、彫刻や郵便局……加えて街中の変なもの……などがエージェントたちの申請によってPortalとして登録されている。

このPortalを探して、hackという作業をして、経験値APとアイテムを集めるのがレベル1のエージェントの最初のミッションだ。そのためエージェントは街中を歩き回るハメになるのだが、まずこの時点で、自分の生活範囲にこんなに多くの歴史的な建造物があることに驚くに違いない。

参加者が増えた現在では、すぐにでも敵や味方と遭遇することになる。Ingressをインストールするまで、こんな戦いが街の日常の裏で行われていたなんて! と驚くのは必至だ(ストリートファイトに紛れ込んだ素人という感じを否応なく味わう)。

僕は浅草橋に住み、九段下の職場へと通っているのだが、普通ならば見逃して通りすぎてしまう道祖神などを、レベルアップを目指して、iPhone片手に探しまわる生活になってしまった。というのもIngressをプレイすると、レベルアップのために、色々な場所を歩きまわる必要が出てくるからだ。

動きまわる範囲を通勤路線に限定してしまうと、全然経験値(AP)が稼げない。そこで徒歩や自転車を使って、生活圏以外の場所をドンドンと動き回るワケ。結果、普通の都市生活では気付けないような街の成り立ちを記した碑文、ビル影に残された稲荷神社などに次々と遭遇してしまうのだ。

東京は電車網が非常に発達しているので、少しでも歩く距離を減らすために遠回りでも地下鉄に乗ってしまうことも多い。けれどもIngressをやっていると、「自宅から日本橋なんて歩いてすぐじゃん」「早稲田と雑司が谷ってこんなに近かったのか?」「こんな身近にこんなにゆっくり時間を過ごせる公園があるなんて」「都市生活者の最良の移動手段はロードバイクだ」ということを次々と発見していく。

例えばPortalにはこんな面白いものもある。

「100年続く田中食堂」
このPortalは、上野・浅草という緑の陣営が強い所に位置するPortalで、正直、Googleの提示する基準ギリギリのグレーな拠点であるのだが、普段は前を通り過ぎるだけだった定食屋が「ここ百年も営業しているのか?」と違った視点で見えてくる。

街を再発見するのが、Ingressの喜びだが、絵のように美しいコントロールフィールドを敵と共同で作ったり、南国も飛び越えるlinkを張るなどその楽しみ方は多彩だ。

▲「100年続く田中食堂」ポータル

こうしたIngressエージェントの面白い活動は、ネット上で散見しているのでぜひ見て欲しい。

(参考リンク)
ingressの面白いPortalとコントロールフィールド
http://matome.naver.jp/odai/2140927571454667301

Ingressナニコレ面白ポータル
http://blog.tanakamp.com/archives/3531

Ingressナニコレ面白ポータル2
http://blog.tanakamp.com/archives/3540

Ingressナニコレ面白ポータル3
http://blog.tanakamp.com/archives/3613

こうして未知のPortalを探索する楽しみに目覚め始めると、現実と同じように、「際限がない」ことがわかってくる。MMORPGのプレイで出てくる、製作時間の都合のための「時間つぶしのためのミッション」などはない。逆説的だが、Ingressをプレイすることで、現実世界ってこんなに巨大なのかということが再確認される。

休日に18時間かけてロードバイクで走り回っても、「全地球的な闘い」の前では、自分が寄与できる範囲は、初心者のうちは、ほんのちょっとなのだ。その結果、躍起になるまでハマったエージェントは、1日に10キロから20キロも歩くようになってしまう(スゴイね)。

実際、僕の場合は7月14日にiPhone版が解禁になってから、仕事をしながら睡眠時間を削って100キロも歩いてしまった(で、GoogleのイベントでIngressシールもらいました)。とはいえ、歩き過ぎて足が痛いからロードバイクを買った(これを通称リアル課金という)。僕なんてまだまだで、多くのエージェントが集まるPortalの密集地へ足を運ぶと、大抵、一人くらいは歩き過ぎて足を痛めて杖を付いている廃人レベルの人間がいるのだから恐ろしい。

1 2 3

その他の記事

失ってしまった日本ならではの自然観(高城剛)
終わらない「レオパレス騒動」の着地点はどこにあるのか(やまもといちろう)
人工知能の時代、働く人が考えるべきこと(やまもといちろう)
食品添加物を怖がる前に考えておきたいこと(若林理砂)
英語圏のスピリチュアル・リーダー100(鏡リュウジ)
ネトウヨとサヨクが手を結ぶ時代のまっとうな大人の生き方(城繁幸)
沖縄、そして日本の未来を担う「やんばる」(高城剛)
ショートショート「木曜日のエスケープ」(石田衣良)
たまにつかうならこんな「ショートカット」(西田宗千佳)
川端裕人×荒木健太郎<雲を見る、雲を読む〜究極の「雲愛」対談>(川端裕人)
執筆スタイルが完全に変わりました(高城剛)
トランプは「塀の内側」に落ちるのかーー相当深刻な事態・ロシアンゲート疑惑(小川和久)
居場所を作れる人の空気術(家入一真)
脱・「ボケとツッコミ的会話メソッド」の可能性を探る(岩崎夏海)
広告が溢れるピカデリー・サーカスで広告が一切ない未来都市の光景を想像する(高城剛)

ページのトップへ