甲野善紀
@shouseikan

対話・狭霧の彼方に--甲野善紀×田口慎也往復書簡集(11)

言語と貨幣が持つ問題

時間の貨幣化

 

人間が言語を獲得し、概念としての時間が生まれ、時間は節約の対象となりました。食料などの物理的な貯蓄だけでなく、人間は時間の貯蓄、いや時間の削除や節約も行うようになったということです。ここでは時間は貨幣と同じ存在であるかのように認識されています。

内田樹氏は『日本の文脈』のなかで、時間の貨幣化について以下のように述べられています。

「Time is money」という言葉がそもそもいけないと思う。時間をお金に換算できるという発想が間違っている。「Time is time」ですよ。時間は時間であって、それ以外のいかなるものにも置き換えられない。時間は計測できないし、数値化できない。僕たちは時計というものを持っているせいで、時間は計測可能だと信じているけれど、時間て、ほんとうは測れないんですよ。(『日本の文脈』)

言語によって、人間は時間をモノとして認識し、さらに貨幣と結びつけて思考するようになりました。くわえて時計などの計測器によって、時間は実際に計測の対象となりました。その結果として、時間の節約が行われるようになり、甲野先生が最近つとにご指摘されている「暇」や「退屈」といった問題が出てくるようになったのだと思います。

以前どこかで読んだのですが、福祉の分野では先進国と言われている北欧諸国では、自殺率が高いそうです。以前、この自殺率の高さの理由を松下幸之助が「ヒマになったからではないか」と書いていたのを目にした記憶があります。また、戦争中は自殺が減り、平和になると自殺率が上昇するという話もあります。もちろんさまざまな要因が重なっての現象なのでしょうが、暇になるということと自殺率の上昇とのあいだにも、何らかの関係性が存在している可能性はあると思います。

もし、平和になり、暇ができるほど人が自殺をするようになるのであれば、それはとてつもない「皮肉」ではないでしょうか。もちろん、だから戦争にも価値があるなどと言いたいわけではありません。ですが、効率を重視し時間を節約すればするほど、人は暇になり、生への意欲が減退していくという皮肉が生じうることもまた事実であり、我々はその点についても考えていかなければならないと思います。

田口慎也

 

 

 

※この記事は甲野善紀メールマガジン「風の先、風の跡――ある武術研究者の日々の気づき」 2012年04月16日 Vol.026 に掲載された記事を編集・再録したものです。

 

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甲野善紀
こうの・よしのり 1949年東京生まれ。武術研究家。武術を通じて「人間にとっての自然」を探求しようと、78年に松聲館道場を起こし、技と術理を研究。99年頃からは武術に限らず、さまざまなスポーツへの応用に成果を得る。介護や楽器演奏、教育などの分野からの関心も高い。著書『剣の精神誌』『古武術からの発想』、共著『身体から革命を起こす』など多数。

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