ゆとり世代の誕生
そうして、「ゆとり世代」が誕生した。彼らは、シラケ世代の両親に溺愛されて育った。おかげで、非常に楽に生きることができた。目の前に障害があっても、親がそれを取り除いてくれたからだ。彼らはただ、親に愛想さえ振りまいていれば良かったのだ。しかしおかげで、競争する機会を奪われてしまった。運動会では、負けた悔しさを味わわせないようにと、勝った子への報償が廃止された。ひどいところでは、全員が手をつないで横並びでゴールした。やがて思春期になると、「受験戦争」がどんどんと取り除かれていった。AO入試が流行し、勉強ができない子のための大学も用意された。そうして、受験に失敗する悔しさを味わわせないようにしたのである。
さらに、そういう状態の中で不況が続いた。ゆとり世代の子供たちは、生まれてから大人になるまで、一度も好景気を体験することがなかった。だから、格差というものが広がらなかった。みな、そこそこの水準にとどまっていて、その意味では平等だった。しかも、デフレ社会だったから必要なものはそれなりに揃った。貧乏にはほど遠く、飢えなどとは無縁だった。そのため、それなりに幸せだったのだ。
そうして、ついに彼らの内面から「競争する」ということへの価値観が失われてしまった。というより、それを育むチャンスを失った。なぜなら、競争をしなくても生きてこられたからだ。いやむしろ、競争を忌避することが最善の選択となるような人生を、ここまで送ってきた。庇護者である親に愛想さえ振りまいておけば、簡単に生きることができたからだ。その意味では、彼らは奴隷も同然だった。自らの主体性など、ほとんどゼロに等しかったのである。
ところが、そういう状態で社会に出たときに、彼らを待ち受けていたのは空前の「大競争社会」だった。世の中は格差が拡大し、必ずしも平等ではなくなった。不況が終わって、金持ちが生まれる代わりに貧乏もまた生まれるようになっていた。
そのため、大混乱が巻き起こったのだ。若者のほとんどが、大競争時代に飲み込まれ、為す術もないまま「捨て駒」として、いいように使われるようになったのである。
次回は、そんなゆとり世代を襲った「大競争時代」と、彼らと「相互依存」の関係を育んだ「ブラック企業」について見ていきたい。
※「競争考」はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」で連載中です!
岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」
『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。
【 料金(税込) 】 864円 / 月
【 発行周期 】 基本的に平日毎日
ご購読・詳細はこちら
http://yakan-hiko.com/huckleberry.html
岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。
その他の記事
口コミ炎上を狙う“バイラルサイト”問題を考える(本田雅一) | |
物議を醸す電波法改正、実際のところ(小寺信良) | |
過疎化する地方でタクシーが果たす使命(宇野常寛) | |
日本でも始まる「自動運転」(西田宗千佳) | |
世界的観光地が直面するオーバーツーリズムと脱観光立国トレンド(高城剛) | |
体調を崩さないクーラーの使い方–鍼灸師が教える暑い夏を乗り切る方法(若林理砂) | |
内閣支持率プラス20%の衝撃、総裁選後の電撃解散総選挙の可能性を読む(やまもといちろう) | |
ZOZOSUITのビジネススーツ仕上がりが予想以上に残念だった理由を考える(本田雅一) | |
暦から社会と自分の未来を読み解く(高城剛) | |
ネットは「才能のない人」でも輝けるツールではありません!(宇野常寛) | |
パー券不記載問題、本当にこのまま終わるのか問題(やまもといちろう) | |
「野良猫」として生きるための哲学(ジョン・キム) | |
テクノロジーが可能にしたT2アジア太平洋卓球リーグ(T2APAC)(本田雅一) | |
ゆたぼん氏の「不登校宣言」と過熱する中学お受験との間にある、ぬるぬるしたもの(やまもといちろう) | |
「和歌」は神様のお告げだった〜おみくじを10倍楽しく引く方法(平野多恵) |