『ピダハン』に省みる信仰
この著者ダニエル・L・エヴァレット氏の、この告白は、人間として心打たれるものがあります。ただ、この本を読んで、深く自らを省みる宗教関係者は決して多くはないでしょう。
なぜなら、この本は近代文明に対して十分なインパクトがあるとはいえ、他人の経験を記したものであり、この本から自分の信仰を深く問い直すという事は、日常それだけ信仰と本気で向き合っているという前提が必要だからです。
ただ、本当に深い信仰を持っている人は逆に感銘を受けるのではないかと思います。それは「ピダハン」の人々の精霊に対する思いと、自らが信じる宗教の神や仏に対する感覚に共通したものを感じ取るからだと思います。深い信仰に目覚めた人にとっての神や仏は、きわめて実感があり、現に存在している親戚の人々や知人のように感じられているようですから。
しかし、何といっても驚くのはピダハン語という言語によって形成されたピダハンの人々の精神構造が、近代文明と触れ合って百年以上も経っていて、その文明の利器をある程度生活に取り入れているのに、精神は「いささかも」と言っていいほど近代文明に侵食されていない事です。この事に関しては、言語学を専門的に学ばれている田口さんの御意見を是非とも伺いたいと思いますので、よろしくお願い致します。
甲野善紀
※この記事は甲野善紀メールマガジン「風の先、風の跡――ある武術研究者の日々の気づき」 2012年07月16日 Vol.032 に掲載された記事を編集・再録したものです。
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