やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

組織変革とは、まず自分が変わろうとすること

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」Vol.122<そろそろスマートテレビ関連と、アメリカでも話題になり始めたネットの中立性問題について語る>2015年2月28日発行より

 

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【Q】老舗の改革を手がけるには

50代の某です。元銀行員です。

すでに孫もいる私ですが、このほど30年以上働いた銀行を離れ、訳あって融資先に社長として迎えられることになりました。地方の製造業です。

といっても、業績は不振を極め、4期連続の赤字。たんまりあったストックも底をつきそうです。

創業家の現オーナーは健在ですが高齢で、お子様の副社長が一人前になるまでの繋ぎという役目を承知で入ったのですが、何ともひどい有様で……。(略)100人近い社員をどうするのか、非常に悩みます。融資先が経営難に陥ったことはあっても、経営難の当事者になったことはないのです。

昭和のはじめからの老舗であるというプライドが強いのか、仕事の仕方が非効率と分かっていてもそれがこだわりだからと変えることができません。(略)売り上げの管理ひとつとっても、誰が何を管理しているのか分からないという状態で、どこから手をつけたらよいのか悩んでいます。

(略)

社員の平均年齢も40代になろうかという段階で、なにせ私よりも年配の社員もごろごろとしている社内をどうにか改革するには何から心がけたらよいでしょうか。(和歌山の某さま)

 

【A】組織変革とは、まず自分が変わろうとすること

大変興味深い事例でのご質問ありがとうございます。
また、長くメルマガを読んでいただいているとのことで、感謝しております。

お話としては大変興味深いのですが、一般論として、経営者になりきらないと駄目だと思います。ちょっと頂戴した文面からは、甘さといいますか、迷いが強すぎる感じがいたします。

何よりも、新しい世界に飛び込まれ、いままでの銀行のやり方では先に進まないジレンマを強く感じておられることと思います。商品知識や人材の特徴などを掴み、適材適所に配置するといっても、人を動かすだけでも一苦労という状態ではないでしょうか。

まず、ご自身が次代へ経営を引き継がれる役割を全うするにあたり、銀行時代のある種予定調和的な世界から脱皮しなければなりません。おそらく、会社を再浮上させるために必要なことはすべて貴殿は分かっておられると思うのです。

ざっと外から拝見する限り、会社の売り上げも減少しておりますが、それ以上に課題であるのは売り上げの予測に比べて社員が多すぎます。首をすぼめて嵐が去っていくのを期待するのでは駄目で、会社を守るためにも必要なリストラは行わない限り倒産しかねない状態であることはご承知のとおりです。

そのためには、まずご自身が経営の手綱をしっかりと持ち、業績の不振からの整理解雇ができる体制を固めて何にも変えず断行することが求められています。ある意味、暴君の謗りを受けてでも不退転の覚悟で黒字転換をするのだという決意と共に、経営上可能な解雇者への配慮を尽くすというアクセルとブレーキを両方踏むような経営が求められます。

そして、会社の儲けの源泉は何であり、大口の得意顧客を失わずに黒字転換が可能な仕事量を割り出し、非効率の根源になっている余計な仕事を止め、それに従事している工数を減らして、対応する以外に方法はないでしょう。

私自身も引き継いだ父親の仕事で大規模なリストラ作業を主導する経験をしましたが、最後のところはこれが会社を守るために必要なことなのだという経営者の腹の括りの部分であって、再スタートのための条件をしっかりと見定めて、その方向へ向かって孤独に走り抜くことが何よりも大事だと言えます。そこにはスキルもテクニックもない、人間のむき出しの姿を見ることになります。昨日までにこやかにしていた社員が、ひとたび退職金が出ないとなると社員同士結託し、労働審判の場で審尋のテーブルの向こうとこちらで条件闘争をするのです。銀行には返済の先延べをお願いしたり、取引先に頭を下げて支払いを飛ばしてもらったり、さまざまな手段を使って、石にかじりついてでも黒字にするしかないのです。

そのような経験をしているからこそ、苦境に陥った会社がどうにかなるのかならないのか、見極めることが可能になります。不振企業の相談があって現場を覗くたび、それはまあ濡れ切った雑巾から水が滴り落ちているような非効率な組織を見ることになるわけですよ。経営者が、リストラされる社員の顔色を伺うようでは駄目だし、一方で人間味をすべて失って一方的に解雇通告をしたりリストラ部屋を作って押し込んだりするようではいけません。もうこれ以上、社員にとって会社にいても厳しい未来しか待っていないのだと、個々膝詰めで話す以外に方法はありません。

そして、味方はいないと思って構いません。よほど物好きな弁護士でもいれば相談に乗ってくれるかもしれませんが、基本的に不振企業に誠意を尽くしてくれるような人はいないのです。悩んだって、誰も肩を持ってくれないのです。最悪、いまいる取締役だって会社に未来はないとなれば、うまくフェードアウトしたり、取引先に転職しようとしたり、ライバル会社に引き抜かれたりします。世の中、そんなもんです。

苛烈な状況を切り抜けられた経験は、その人にとって貴重な財産になります。勤め人には絶対に味わえない、経営者の苦味の効いた侘び寂びであって、人の上に立つ者の醍醐味です。力強く、アクセルとブレーキを床まで踏んで、甘えを持たず冷静に現状を見て自分の考えだけで判断していくことができれば、どんな難局でも結果が出なくていつまでも宙ぶらりんになるということはないのです。

逆に言えば、腹を括ってしまえば何も怖くないのです。最悪、倒産したとしても破産をするために必要なお金だけ残して、きちんと幹部や社員に話をしてこれ以上お金はないのだ、払える退職金はこれだけだ、と赤裸々に話すと、打開できるものはたくさんあります。貴殿の出資母体の銀行にも「ご覧のとおり、利息しか払えません。そのお返しする利息は半分ぐらいにしてください」と堂々と交渉されてはいかがでしょうか。無いものは、無いんですから。

「できることは、全部やった」というのが大事です。それが、誰に対しても、自分に対しても、もっとも誠実な答えです。引き受けて経営者になった以上、経営者に変わってください。まずはそれが、解決に導く第一歩だと思います。

 

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」Vol.122<そろそろスマートテレビ関連と、アメリカでも話題になり始めたネットの中立性問題について語る>

2015年2月28日発行
目次
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【0. 序文】代表質問
【1. インシデント1】これで何度目かのテレビのスマート化を巡る戦いがまた始
まりそうです
【2. インシデント2】米国で揉めているネット中立性について現状をおさらいなど
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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