心が健康でいられる方法は、なんといっても「言いたいことを言える環境」を作ることである。心を病む人というのは、言いたいことを言えない環境にある。言いたいことを言えないことが、心を病ませる。そして心を病むことが、体も病ませる。するとやがて、肉体を「要介護」の状態にしてしまうのだ。
要介護の状態になるというのは、一種の復讐だ。これまで言いたいことを言わないという形で無理強いしてきた自分の体に、自分自身が復讐されているのである。
だから、そうならないためには日頃から自分に恨まれないような生き方をしなければならない。自分をだいじにしなければならない。
では、自分をだいじにするにはどうすればいいか?
それは、言いたいことを言うということである。
では、言いたいことを言うためにはどうすればいいか?
それは、親しい人を作るということだ。言いたいことを言える家族や友人を作るのである。そうして、その人に言いたいことを言う。
ただし、ここで重要になってくるのは、その言うという行為が一方通行にならないことだ。ギブアンドテイクの、バランスの取れた「貸し借り」になっているということである。貸借関係がチャラになっているということだ。
なぜなら、ここでチャラになっていないと、早晩その関係は破綻してしまうからだ。
例えば、こちらが一方的にしゃべっていると、やがて相手の中にストレスが溜まってくる。そうして、いつしか相手が壊れてしまう。相手が壊れてしまうと、こちらとしても言う相手がいなくなるので困る。だから、相手の言うことも聞きながら、お互いに言いたいことを言い合えるような環境を作ることがだいじなのである。
そのため、「貸借関係」の勘所が分かっていないと、そういう関係を作るのが難しくなる。貸し借りの上手な人でないと、なかなか継続的な関係を築けない。
心や体を壊す人は、だいたい貸し借りが下手である。貸し借りが「下手」というのは、例えばカラオケに行ったら自分の歌いたい歌を歌う——ということだ。けっして周囲が聞きたい歌を歌わない。
以前、仕事仲間でカラオケに行ったことがあった。そのときは、下は二十代から上は五十代まで、さまざまな男女が参加していた。
そこで、「ぼくはこれしか歌えないから」と言って「はじめてのチュウ」を歌った三十代の男性がいた。すると、その場にはなんとも白けた空気が広がった。ぼくは、仕事柄そうした空気は生理的に耐えられないのだが、しかしその男性は、全然平気な様子だった。
それでぼくは、「こういう人が、やがて言いたいことを言えるような関係をなくし、心や体を壊していくのだな」と分かったのである。
「貸し借りの下手な人」というと、そういう「借りっぱなしの人」というイメージが強いが、実は「貸すのが下手な人」というのもこれに該当する。
「貸すのが下手な人」というのは、要はプライドが高い人である。人に弱みを見せられない人だ。いうなれば「裸の王様」である。
周囲からツッコミをされるのがすごく嫌いな人というのがいる。隙を見せるのが嫌いな人というのがいる。こういう人が「貸すのが下手な人」だ。
その逆に「貸すのが上手な人」というのは、ボケることが得意だ。例えば、とんちんかんだったり、おっちょこちょいだったりする。それで、周りからツッコまれたり、注意されたりする。
そういう人は、周囲にツッコまれることで、その場に一服の笑いを提供している。つまり、「貸し」ているのだ。だから、多少言いたいことを言っても、周囲が大目に見てくれる。
イメージでいうと、「男はつらいよ」の寅さんや「こち亀」の両さんのようなものだ。ああいう隙だらけで周囲からいつもツッコまれている人こそが、本人も言いたいことを言えるので、心が健康でいられるのである。
まとめると、心が健康でいるためには、自分が言いたいことを言うことがだいじだが、相手に言いたいことを言わせるというのも、同様にだいじなのである。
※この記事はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」に掲載されたものです。
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