川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」より

アマチュア宇宙ロケット開発レポートin コペンハーゲン<後編>

川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!』vol.004より
※アマチュア宇宙ロケット開発レポートin コペンハーゲン<前編>はこちらから読めます。

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〈現在、製作中のロケットに使われるエンジンBMP5。詳しくは前号を〉





 

 
 

いつのまにか「見学者」モードから「仲間」モードに

まずは、レポート前編の振り返りから。

ぼくは、インタステラテクノロジズ株式会社の稲川貴大(@ina111)さん、前田祐義(@hiroyoshimaeda)さん、そして大ボスである堀江貴文さんらと、コペンハーゲンのアマチュア宇宙開発グループ、コペンハーゲン・サブオービタルズ(CS)を訪ねた。

最初は、通常の見学者モードだったのだが、会話するうちに、相手も、こちらがただ者ではないと気づく。そして、堀江さんが動画を見せつつプレゼンすると、CSのエンジニアたちの目の色が変わった。こいつら、デキル、と。

そこから先は、オトモダチである。

世界に広がる、民間ロケット開発コミュニティとして、「うんうん、それわかる」「おー、そうやってんのか、スゲー」という会話の応酬。

堀江さんが別件で去った後も、延々と対話は続いた。それは、もう見学でも、視察でもなく、「参加」いや「開発協力」の域に達していたのであった。

 

ロケットの「点火方式」をめぐって熱い議論がくりひろげられる!

稲川さんと、CSエンジニアたちのディスカッションがぼくの前で続いている。

おれたちは、こんなことやっていて、というふうな大ざっぱな話を最初やっていたのだけれど、それが終わると、次第に技術的なディテールに入り込んでいく。

だいたい、みんな最初は、エンジンの方式だとか、構造だとか、根本的なことを気にするわけだが、ロケットというのは本当に細かいことの積み重ねであり、そのひとつ一つにコツだとか工夫だとかが詰まっている。

その一例。

「きみたちは、どんなふうに点火している?」と聞かれた(念のため書いておくと、川端も行きがかり上、インタステラテクノロジズ株式会社の社員かなにか、だと認識されていた)。

燃料と酸化剤をインジェクタから噴いて、燃焼室で混合してもそれだけでは燃えない。自己着火性の「出会えば燃える」組合わせもあるが、代表的なエタノール・液体酸素、ケロシン・液体酸素、液体水素・液体酸素などは、いずれも点火しなければ燃焼しない。

「おれたち、結構、点火には苦労しててね」とCSのエンジニアが言うとおり、「火をつける」という基本的なことにも結構、ノウハウが必用なのである。

ここで、我らが「なつのロケット団」と、CSのエンジニアら、またもホワイトボードを使ってのディスカッションモードに入る。

今度はエンジンを自ら作り続けている前田さんが、自らホワイトボードの前に立ってささっと図を書いた。燃料と酸化剤が噴射されるインジェクタの隣に空気と水素ガスを混合したものを燃焼室内に送り込む細いルートを描く。

水素ガスは簡単に火がつくので、小さな電気火花でも着火し、エンジンに火を入れることができる。

「おーっ」「それでいいのか」とばかりにどよめきが起きる。

「じゃあ、空気と水素の混合比はどうか」とか、いろいろ質問も出てくる。水素は簡単に火がつくので、わりと混合比の自由度は高い、みたいな話を稲川さんがする。

議論が、白熱する。

あれ、前田さんがいない!

と思ったら、前田さんは別のところにいるCSのエンジニアの一人と、何かの溶接を始めていた。

技術はひとをつなぐのである。互いの溶接技術の実力を認め合った漢たちの熱い友情が(溶接だけに)芽生えた瞬間だった。

 

難易度が高いパラシュート開発

そうこうするうちに、会議の時間となった。いつのまにか、我々の席も用意されていた。

夜10時近くなっていて、外はやっと暗くなっている。夏の北欧の夜は長いのである。それでも、これがたぶん本日の締めの会議だ。

全員、といっても、20人くらいが一室に集まって、この日は、回収用のパラシュートについて議論した。

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〈作業場の中には断熱バネルで囲まれたミニマムな建物が。実は大規模な暖房がないので、冬場はかなりキツイ。会議は一応ヒーターのある「建物」の内側で行われる〉

 
開発を担当している技術者とその下についている若者(インターンで来ている学生)が中心になって説明した。

3DCADを使い、様々な角度から検討していく様子は、非常に手慣れていてプロフェッショナルな印象も強く受けた。それもそのはずで、CSのエンジニアたちは、実は仕事でもエンジニアだったり、大学では博士号まで取っていたり、かなりの技術エリートなのである。プロジェクト管理はお手のものだ。

しかし、それでも、アマチュア計画であるからして、穴はあって、実はパラシュートは、CSにとって鬼門なのだった。これまでの打ち上げで、うまく開かなかったことが多い。ぼくがプラネタリウムでみたエントリー・プラグみたいな「一人乗り宇宙船ティコ・ブラーエ」も、パラシュートがうまく開かず、水面に激突した。

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〈バラシュートかいかに軽視されがちか(軽視しがちか)。これはCSとはじめて出会ったプラネタリウムの写真だが、パラシュートが写っていたのはこれだけだった。それも片隅に……ぼくはまったく「主題」として捉えていない〉

 
実際、パラシュートというのは、アマチュアにとってはなかなか難易度高い分野だ。ロケットの開発をしているわけだから、その回収は大事なのだが、打ち上がらなければ元も子もないので、やはり後回しになりがちだし、そのわりには専門性も高くて、ぎりぎりになって慌てるというパターンが増える。

CSのエンジニアの発言がすべてを象徴していた。

「専門のパラシュートメーカーは、“ロケット用”というとなかなか協力してくれない。たぶん、失敗するとブランドイメージに響くからではないかな」

「たしかに!」と稲川さんたちも思い当たるフシがあるらしい。洋の東西を問わず、同じことをやって同じ苦労をしている、そんな連帯感がますます高まるのであった。

なにはともあれ、宇宙ロケットを自分たちで開発する際に、パラシュートもやはり自分たちで開発しなければならないのだ。あの大きなものをどうやって畳めばいいのか、どうやって放出すればいいのか、等々、議論は続いた。

ここでも、「なつのロケット団」にはノウハウがあった。

ちょっと面白い仕組みなのだが、細かいことはヒミツ。本当はヒミツではないのかもしれないが、ぼくが充分に説明する能力がないので、ヒミツということにしておく。

「おう、そういう仕組みは考えたことがなかった!」とCS連中にもウケていた。

少なくとも、CSのロケットよりもずっと実績のあるパラシュートである。

しかし、彼等の次期打ち上げに活用するためには、設計レベルから無理があるので、単に賞賛されておしまいになったが、いずれ、「なつのロケット団」方式を取り入れる時がくるかもしれない。

なお、今回のNEXO用のパラシュートは、インターンで来ている学生に「今、話し合ったことをもとに二日以内にきみが設計を改善する。できるか。できるならやってみろ」的に任せていた。「できるか、できないか」を聞いて、「できる」と言えば、全面的に任せる。なかなかスパッとした運営だった。

 

宇宙開発の技術を何に使うかで「お国柄」が出る?

さて、こちらへの関心が高くなると、質問の内容も作っているロケットを超えて、もう少し運営より、ビジネス寄りのことになっていく。

前述の通り、CSは、完全アマチュアで、資金をクラウドファンディングでまかなうスタイルだ。宇宙にロケットを飛ばしたいからやっている、という連中の集まり。それぞれ、定職を別に持っていたり、インターンの学生として来たりしている。

一方、稲川さんらのインタステラテクノロジズ株式会社は企業だ。

ロケットを開発し、なにかの「荷物」を請け負って宇宙に飛ばし、収益を得なければならない。

「どんな会社から、どんな仕事を請け負うのか」というのは当然の質問だ。

「やっぱり、小型人工衛星か」とCSの技術者は聞いた。

「もちろん、小型人工衛星は考えているが、今のところは、企業の広告に使ってもらっている」として、稲川さんが見せたのが、2014年の「ポッキーの日」(11月11日はポッキーの日!ちなみに中国では独身の日(お1人さまの1を並べたところからの連想))の打ち上げ。ポッキーに見立てた細長いロケットを、1111というふうに並べて、発射した。

「ほかには、宇宙で、コンピュータに将棋をさせたり……」などと、いろいろ計画が出てくる。

ここで、なにか説明困難を覚える。

小型人工衛星はともかく、企業広告についてのイメージに違いがある。

宇宙でコンピュータ将棋というのは、いったいどういうことなのか。コンピュータを宇宙に飛ばして(弾道飛行)、落ちてくる数分の間にコンピュータ同士の対局をさせる、というのだが、「それ、なにがおもしろいの?」と言われたらおしまいだ。確かに、史上初の宇宙での対局ということになるはずだが……。

CSの人たちは、「言っていることは分かる。しかし……」とニヤニヤして、こう続けた。「それって、とても日本ぽいよな」と。

日本ぽいというのは、この場合、どういう意味なのか。

マンガとかアニメとかに出てきそうということだろうか。たしかに、野尻抱介さんの「南極点のピアピア動画」http://amzn.to/1KcZNwM では、ボーカロイドを宇宙に送り出す話があった。

「いや、分かるよ。それおもしろい」と実は、CSの連中も、そのビミョーなおもしろさを「分かる」側だと、ぼそりと告白したのだった。

彼らが「日本的」と述べたことに、ちょっとだけ異論がある。日本的かどうかはさてといて、あなたたちも、充分に変じゃないの、と思うのだ。

例えば、宇宙船。

あれは、なんですか? プラネタリウムに展示してある、エントリープラグ型一人乗り宇宙船はクレイジーとしかいいようがない。あれだって、アニメの世界から飛びだしてきたみたいでしたよ。

で、作業場にまで来てみると、さらに「その先」があるのだ。

ここにも、宇宙船があった!

(続きは川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!』vol.004にてお読みください)

 

川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!

2015年11月20日発行vol.004
<コペンハーゲンのおっさんたち~アマチュア宇宙ロケット開発レポート後編6000字/ブルガリアにも“なまはげ”がいた? 奇祭「クケリ」と土地の記憶/イルカと水族館問題/ドードー連載>ほかより

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Vol.004(2015年11月20日発行)目次

01:本日のサプリ:NZ南島キガシラペンギンヒナシリーズ
02:宇宙通信: コペンハーゲンのおっさんたち~アマチュア宇宙ロケット開発レポート後
編・6000字
03:keep me posted~ニュースの時間/次の取材はこれだ!(未定)
04:移動式!: ブルガリアにも“なまはげ”がいた? 奇祭「クケリ」と土地の記憶
05:秘密基地で考える: イルカと水族館問題/WAZAの倫理規定を読んだら、日本の水族館は「グレー」じゃなくて「黒」だった
06:連載・ドードーをめぐる堂々めぐり(3)
07:せかいに広がれ~記憶の中の1枚: ブルンジの学校のとある日曜日
08:イベントのお知らせ
09:著書のご案内・予定など

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川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

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