書評『人生は楽しいかい?』(夜間飛行)

極めてシンプルでありながら奥が深いシステマ小説

最近読んだ本のなかで一番役にたった

何かいい本ないかなと思っているみなさまに、超オススメの一冊があります。

物語形式なのでめ、夢中になっているうちにあっという間に読めちゃいます。そして、書かれていることは奥が深いですが極めてシンプル。すぐに実践できるので、最近読んだ本のなかで一番役に立ちました。

物語の主人公は何事にも自信を持てない、しがないサラリーマンです。

電車に乗っているとき、目の前で後輩の女性がヤンキーに絡まれますが、腰を抜かして何もできず、自分の不甲斐なさを痛感して、心の底から「変わりたい」と願います。その後、ひょんなことから、そのときに助けてくれた関西弁の外国人と再会して、彼は「システマ」というロシア特殊部隊の「教え」を受けることになります。

といっても、彼が教わるのは格闘技としてのシステマではなく、会社の仕事や日常生活の課題をクリアするための「人間能力解放メソッド」としてのシステマです。彼はシステマを学ぶことによって、一歩ずつしかし確実に成長していきます。

その教えは、特殊なものではありませんが、言われてみればたしかにそうだなという現実を指摘してくれています。

「いつも平常心を失っていてゆとりがないから、ちょっとしたことでパニックに陥るし、自分が危険な状態に気づかない」

「『いつでもここから逃げられる』という余裕があって初めて、人と人とは『対等』になれる」

「自分が緊張すれば相手も緊張する。自分がリラックスすれば、相手もまた、リラックスする」

「無闇に急いでいる人間は、見落としてはいけない大切なことを見落としてしまう」

その上で、それをクリアする方法を教えてくれています。

それはとてもシンプルなものです。

「ゆっくりおこなう」――ゆっくり行うことでいつもどれだけ雑にやっているのかがわかり、大事なことがみえてきて大局的な視点からはむしろ効率的になる

「相手ごとに心地よい距離感を計る」――数センチ、数十センチ相手との距離を変えるだけで心地よくやりとりできるようになる

「視点を動かす」――視点を少し動かすだけでリラックスできる

「大変なときほど呼吸を意識して、平熱の状態にリカバリーする」――それによって常に余裕を持ち、パニックに陥ることなく、動き続けることができる。

システマのエッセンスをまとめた言葉に“Keep calm. Keep moving”というものがあります。

これをみてもわかるように、従来の自己啓発本は「考え方」を変えることにフォーカスされていましたが、それらとの決定的な違いであり本書のオリジナリティは、「具体的な心と身体の動かし方」に焦点化しているところです。

実は先日、僕自身が、ひょんなことから警察沙汰になりかねない“修羅場”に立ち会うことになりました。しかし、この本で学んだ教えを活かして、意識的にリラックスして平常心で対応し続けた結果、考え得る最善以上にうまく切り抜けることができたということがありました。

「変わりたい」と心から願った主人公のサラリーマンの成長ストーリーのなかで、ユーモアたっぷりに「システマ」の極意を伝えてくれてくれている本書は、穏やかさをキープしたまま成長したい、成果をあげていきたいというすべての人にお勧めです。

きっと上述したエッセンスの真の意義がわかるでしょう。

 
人生は楽しいかいカバー-02

『人生は楽しいかい?』

ゲオルギー・システマスキー著 北川貴英監修
夜間飛行、2016年
http://amzn.to/28JhmeT

もう他人の価値観には振り回されない!
笑って泣けてためになる、感動のストーリー。

うだつの上がらないサラリーマンの僕が出会った謎のロシア人“ゲオ"。

一見小太りでパッとしないゲオが僕に伝えてくれたのは

ロシア特殊部隊で生まれた「人生を変える方法」=「システマ」だった――。

 

[評者 西條剛央]

1974年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学大学院(MBA)客員准教授。

1999 年早稲田大学人間科学部卒業、2004 年早稲田大学大学院人間科学研究科で博士号(人間科学)取得。日本学術振興会特別研究員(DC/PD)を経て、2009年より早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻専任講師、2014年より現職。専門は組織心理学、哲学、質的研究法。

2011年、東日本大震災をうけて、独自に体系化した構造構成主義をもとに「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を設立、物資支援から重機免許取得といった自立支援まで50以上のプロジェクトからなる日本最大の総合支援組織に育てあげた。2014年、世界的なデジタルメディアのコンペティションである「Prix Ars Electronica」のコミュニティ部門において、最優秀賞にあたるゴールデン・ニカを日本人として初受賞。ベストチームオブザイヤー2014受賞。
主な著書としてAmazon総合1位のベストセラーとなった『人を助けるすんごい仕組み』(ダイヤモンド社)、『構造構成主義とは何か』(北大路書房)、『質的研究とは何か』(新曜社)、『研究以前のモンダイ』(医学書院)、『チームの力——構造構成主義による“新”組織論』などがある。

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