高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

長崎の街の行方に垣間見える明治維新以降の日本社会の力学

高城未来研究所【Future Report】Vol.281(2016年11月4日発行)より


今週は長崎にいます。

先週滞在した小笠原と20度も気温差がある秋の長崎は、好天続きですが、南国帰りの僕には真冬のように感じます。
南国仕様に開いた毛穴が戻るには、もう数日かかりそうです。

今週は、祝日もあって長崎の街中は多くの観光客で賑わっており、なかでも2週間ほど前に完全復元を目指す出島の新棟6棟が公開され、注目を集めていました。
出島は、江戸幕府の鎖国政策の一環として長崎に築造された扇型の人工島で、当初はポルトガル、のちにオランダ貿易の窓口として繁栄した歴史的な場所でした。
ここが、日本にはじめてコーヒーやビールが伝わった場所であり、ビリヤードやバトミントンも、ここから日本に持ち込まれまれた文化的な場所でもありました。

しかし、昭和の高度経済成長期以降の埋め立て工事とビル建設により、出島周辺が次々と埋め立てられ、出島にも関係ない進学塾などが立ち並んで、かつての名残が消えてしまいましたが、近年、行政が中心となって周辺不動産を買い戻して更地にし、あたらしい観光名所として地域主導による出島の完全復元プロジェクトがはじまりました。

実は、計画当初からすでに20年以上が経っており、この間、行政が工事費の積算を誤ったまま発注し、落札した建設が倒産したり、その積算ミスに長崎市は気づいておきながら、そのまま再入札を行っていたことなども発覚し、役所内の隠ぺい体質が表沙汰になりました。
このようなことから、地元では出島の復元事業への関心が日々薄れてしまっているのが現状で、果たして、地元の人たちから愛されていない場所が、本当の観光名所になるのか、個人的に注視しています。

また、僕の個人的な興味は「出島ワイフ」にあります。
当時のオランダ人は出島から一歩も出れなかったはずで、そこに日本人で出入り可能だったのは一部の役人と遊女だけでした。
この遊女たちが、通称「出島ワイフ」と呼ばれ、多くの西洋文化を日本の庶民に広めた本当の人たちだったはずです。

もちろん、長崎市は積算ミスも隠蔽するくらいですから、「出島ワイフ」もなかったことにするでしょうし、「ダッチワイフ」の語源である可能性なども隠蔽するでしょう。
もし、都合の悪いことを「なかったこと」にするならば、完全復元は表層的なものになり、ただの小さなテーマパークにしかならないでしょうし、ここにお役所による地域創生の限界があります。
米国大統領選を見ても明らかですが、このインターネットの時代、都合のいい情報公開は、なにより人々の気持ちを遠ざけるものです。

さて、長崎市といえば、今も昔も三菱の企業城下町として知られており、明治維新の時に活躍した武器商人トーマス・グラバーと三菱(土佐商会)、そして日本の武器商人として諸外国では知られていた坂本龍馬によって、時代が大きく変わる要因になったハブ港でもありました。
そして現在まで、その力学のまま、敗戦後も続く日本の基本形がここで作られることになります。
いまも日本のイージス艦の大半は長崎で作られていることから、軍需都市としても長崎は世界的に知られた街で、原爆を落とされた都市が、なかなか大声で平和都市宣言しづらい懐事情も、ここにはあるのです。

数年前に一般に観光が解放され、世界遺産登録も果たしたた軍艦島(端島)も、兵器製鉄のための三菱所有の炭鉱だったわけですが、保存修繕に今後300億円ほどかかると言われており、ここにも懐事情が垣間見えます。
本来、長崎は「教会群」の世界遺産登録を目指していましたが、教会の「保存」ではなく、より「インフラ整備」(土建)を望める「産業革命遺産」(長崎三菱遺産)を、日本政府が押したことにより、地元の人が押す「教会群」は見送られることになったあたりからも、いまも続く明治維新以降の力学が、とてもよく理解できます。

どうにか変えたいと思っても、懐事情により変えられない現状があり、それゆえ、様々な問題を「なかったこと」にしながら、変化を望む心だけは常にある典型的な日本式システムの街、長崎。

この街の行方が、どこか日本の行方と重なるように見える秋の今週ですが、そんな先のことより、まずは冬服の入手が先ですね。
外気12度のなか、夏服で街をウロウロしているのは、僕と小太り白人軍団(たぶん、佐賀のバルーン関係)だけのようです。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.281 2016年11月4日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. マクロビオティックのはじめかた
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

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高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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