高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

東京と台北を比較して感じる東アジアカルチャーセンスの変化

高城未来研究所【Future Report】Vol.336(2017年11月24日発行)より


今週も、東京にいます。

とは言いましても、一泊で台北に行ったり、東北などにも出向いていますので、「主に東京にいた一週間」が正確で、なかなか同じ場所にいるのは、まだまだ難しいのが本当のところです。

さて、数日前に台北におりましたが、もはや日本の1都市と変わらない印象を受けました。
10年前、いや5年前には、ここまでの感覚はありませんでした。
しかし、この5年で東アジアを取り巻く環境は、抜本的に変わったように思います。

言葉は悪いのですが、台北は東京の劣化コピーのように数年前までは感じていました。
しかし、いまは劣化を感じません。
初心者がバンドを組むと、大抵は有名バンドのコピーからはじめ、その後、オリジナル曲を演奏するようになって、独自性を確立するようになります。
都市も似たようなもので、近隣の成功都市を徹底的に学び、その後、オリジナルを目指すようになって、独自に発展するのです。



これは、2017年現在の台北の話ですが、今後、同じようなことが中国全土で起きると予測されます。
このメールマガジンでもよく取り上げます深センは、すでに人口1000万人を突破し、四川省の省都の成都が1500万人、また、重慶に至っては人口3000万人を超え、東京より巨大化しています。
これらの新興都市は、北京や上海のような強い独自の文化を持つ街と違い、急速に発展した東アジアの大都市で、文化的かつサービスクオリティ的には、北京や上海より東京を目指しているように思え、それゆえ、現在これらの都市から日本に遊び、かつ学びに多くの人たちが押し寄せています。

台北の文化的な発展を振り返れば、数年前まで「変な髪型のオッさん」が、まだ街中にいっぱいいました。
しかし、いまは街中で見かけることは、滅多にありません。
近代建築は、お金をかければ似たようなものを作ることができますが、個人のセンスは、一朝一夕で変わらないものです。
このセンスの差が、東京と台北の大きな差だったわけですが、その差がほとんどなくなったように思うのです。
特に女性のメイクやファッションに、センスの均質化を見ます。

一方、重慶や深センには、まだ「変な髪型のオッさん」が街中にいます。
ですが、台北同様に街中でみかけなくなるのも、そう遠くないように思うのです。
ということは、センスのレベルにおいて、そう遠くない先に東アジアがひとつになり、いままで、そのギャップで先行していた日本は、立ち行かなくなることも予測されます。

それどころか、いまの日本の十代前半は、逆に東アジアの隣国から強い影響を受けるようになるのかもしれませんし、センスを中心に考えるビジネスならば、東アジア全般をひとつのマーケットとして、いまよりもう一段深く考える時代になると思います。

ただし、長い歴史を持つ食文化の壁を越えるのは、困難を極めるでしょう。
そう考えると、サービス業より出店や在庫リスクがないコンテンツ産業全般に可能性を見出せます。
かつて、日本で韓国コンテンツが勃興し、過ぎ去ってみると、国策や日本のテレビ業界や芸能界の思惑にすぎなかったことが露呈しましたが、国内のコンテンツ産業をあらためて鑑みれば、典型的な地場産業のテレビ局や広告に紐づく作品が大半で、独自性が乏しく見え、タイの方が進んでいるのではないか、と考えるほどです。



これから10年近くかかるかもしれませんが、東アジアのセンスがほぼ均質化した時、日本発のコンテンツが東アジアを席巻するのか、もしくは、逆に日本が席巻されてしまうのか。
良い悪いはさておき、若年層のセルフィー文化を見る限り、すでに日本は後塵を拝しているように見えます。
ですが、センスとはお金をかけられない時にこそ、あたらしい表現は生まれます。

ピカソの傑作「ゲルニカ」は言うに及ばず、
かつて米国が大不況に喘いでいた80年代に、ポップアートやヒップホップが花開いたように、もし、今後日本が他国より先に大不況や有事に突入したら、ラグジュアリーではない表現が次々と生まれ、大きく先行する可能性もあります。

来たる「東アジアカルチャーセンス大戦争」の勝敗によって、日本に訪れる海外からの観光客数も、今後大きく変わるはずです。
いくら文化財を英語で紹介しても、円高とセンスの先行性がなければ、インバウンドは激減する可能性が高いと考えるべきでしょう。

今週、東京と台北を見る限り、その時は遠くありません。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.336 2017年11月24日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 未来放談
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

その他の記事

「Kindle Unlimited」日本上陸でなにが起きるのか(西田宗千佳)
スマホはこのまま「高くなる」」のか(西田宗千佳)
汚部屋の住人が勘違いしている片づけの3つの常識(岩崎夏海)
観光客依存に陥りつつある日本各地の地方都市の行き着く先(高城剛)
そもそも国にGAFAなどプラットフォーム事業者を規制できるのか?(やまもといちろう)
「USB-C+USB PD」の未来を「巨大モバイルバッテリー」から夢想する(西田宗千佳)
海外旅行をしなくてもかかる厄介な「社会的時差ぼけ」の話(高城剛)
IT野郎が考える「節電」(小寺信良)
「見たことのないもの」をいかに描くか–『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(切通理作)
400年ぶりの木星と土星の接近が問う「決意と覚悟」(高城剛)
アップル暗黒の時代だった90年代の思い出(本田雅一)
ITによって失ったもの(小寺信良)
川端裕人×松本朱実さん 「動物園教育」をめぐる対談 第2回(川端裕人)
なぜこれほど本は売れなくなったのか(岩崎夏海)
「リボ払い」「ツケ払い」は消費者を騙す商行為か(やまもといちろう)
高城剛のメールマガジン
「高城未来研究所「Future Report」」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回配信(第1~4金曜日配信予定。12月,1月は3回になる可能性あり)

ページのトップへ