高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

スウェーデンがキャッシュレス社会を実現した大前提としてのプライバシーレス社会

高城未来研究所【Future Report】Vol.353(2018年3月23日発行)より


今週は、ストックホルムにいます。

近年、スウェーデンは完全なキャッシュレス社会に向かっています。
「現金払いお断り」の看板を掲げている店舗も多く、現金の流通はGDPのたった1.4%しかありません(日本はおよそ20%)。

街中のATMは続々撤去され、仮に現金を支払おうと思っても、お釣りを持ち合わせていない店舗も多く、住人に聞けば、最後に現金を引き出したのは、5年以上前だという人が大半です。

国内複数の銀行が共同開発した「スウィッシュ」と呼ばれるスマートフォンの現金決済システムが定着しており、子供のお小遣いから、路上のホームレス支援まで、このサービスを使って送金されます。
金融機関からすれば、現金を扱うコストを抑えことができるため、物理的な空間や人材の必要がありません。

また、ユーザーからすれば、メリットの第一は安全性にあります。
個人であれば財布を持たず、店舗であればレジを置く必要がありませんので、強盗に会うことがなく、犯罪率も低下します。

その上、「ポスト・スマートフォン社会」を目指し、スマホすら持たず、体内にチップを埋め込み、決済から交通機関の支払いまで行っている人が数千人もいます。
今後、貯金は体内に蓄積される未来になるかもしれません。
このような現状を踏まえ、現在、政府は公式なデジタル通貨の発行を思案しているほどです。

しかし、スウェーデンのキャッシュレス社会は、表層にすぎません。

日本でも電子通貨の話題が取り上げられるたびに、スウェーデンのキャッシュレス社会に注目が集まることもありますが、この背景には、超透明化社会があります。

例えば、個人情報をインターネットで調べると、住所や電話番号、生年月日、仕事や住んでいる不動産の価値、結婚や事実婚の有無、おおよその収入予測など、あらゆる情報が一覧で表示されます。
偶然、カフェで知り合った女性の名前を検索し、住所がわかると「花束を送れる広告」まで表示されるのです。

つまり、スウェーデンのキャッシュレス社会の大前提に、「プライバシーレス」社会があります。
その一環として、お金の透明性を高めるキャッシュレスがあるのです。

他の国からすれば、スウェーデンの「プライバシーレス」社会は異様に思えますが、この国の人からすれば、これが当たり前の様子で、違和感を感じている人は滅多にいません。
この「あたらしいモラル」ともいうべき超透明化社会が、キャッシュレス社会を構築しているのです。

すべてとは言わないまでも、いままで隠していた大半を、誰もが同時にオープンにする。
それによって、ネットワーク化された社会レベルを、一段階アップグレードする。

僕らは、まだネットワーク社会の入り口に立ったにすぎないと、スウェーデンで実感する今週です。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.352 2018年3月16日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 未来放談
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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