5月22日、北京の人民大会堂で全人代(全国人民代表大会)が開催され、これにまつわる産業分野で大きな動きがいくつも出てきていて中国の出方を伺うような諸外国の矢継ぎ早の展開には痺れるものがあるのですが、個人的な興味をまず先に書きますと人民元安に誘導されていまのところ1ドル=7.12元になっています。
また、半導体分野でも中国対策がどかどかと進み、今年2月にはイギリスがファーウェイ(為華)社容認の見通しを出してアメリカが激怒していたところ、今度はファーウェイ社排除へと急転回する話が出ました。また、台湾TSMCがファーウェイ社を含む中国企業への販売禁止なども含めた流れが表出して、揺さぶりというよりはフルスイングに近い状況になり始めています。
米中衝突の契機のひとつであった、野心的な「中国製造2025」ドクトリンの発表も踏まえて、コロナウイルスによる経済低迷後も「新型インフラ建設を強化する」と首相の李克強さんが22日全人代での政府活動方針で推進強化を表明。その最たるものは中国版GPSを超えて、通信インフラの一翼を担う大プロジェクト「北斗」です。
北極圏からユーラシアの3分の2に高精度な位置情報を提供する「北斗」のお陰で中露の主従関係は決定的なものになりつつある一方、中国が推し進めている一帯一路戦略に基づくベンダーファイナンスなどもある種の重商主義的なプロセスで動いていくであろうことは過去に何度もこのメルマガでも指摘して論じてきたところではあります。
これらは、世界の中で尊敬されるグレーターチャイナという曖昧な目標でもなさそうだという雰囲気と共に、圧力が強まる香港、そして台湾、朝鮮半島に南シナ海と、一定の膨張戦略の一環として中国らしい仕掛け方をしているなあとも思うわけであります。一方で、香港国家安全法案については世界が香港の一国二制度に関するある種の「独立保障」的な踏み絵をやるのかどうかは気になります。言うなれば、ナチスドイツの拡張戦略に振り回されたイギリス首相のチェンバレンみたいなことになると、確率は低いとはいえ本当に戦争になってしまいかねないほど、大きなインパクトを国際社会に与えることになるからです。別に皇太子が暗殺されずとも、何か乾いたところに起爆剤になるような突発的なイベントでも起きようものなら、もの凄いうねりとして世界を暗い闇に叩き落とすことも容易に想像がつきます。そうであってほしくない、と願うのみですが。
いずれにせよ、2020年の全人代は、ポストコロナを見据える中国の独善的とも言える強気な発言の数々が漏れ伝わるたびに「ああ、これは新たな冷戦構造なのだな」と思わずにはいられません。秋に国賓として招待したいという習近平さんにまつわる押し引きも含めて、この対立が我が国の安全と国益にどう影響するのか慎重に見極めていかなければならないと思います。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.297 コロナという分岐点から中国情勢、感染症対策、新しい日常等々を見て考える回
2020年5月26日発行号 目次
【0. 序文】揺れる「全人代」が見せるコロナと香港、そして対外投資の是非
【1. インシデント1】コロナウイルス対策は功を奏したとしても、他の感染症をどうか忘れないでください
【2. インシデント2】ニューノーマルにこれまでのリテラシーはどこまで通用するか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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