久保内信行さんがnoteで岡田斗司夫提唱の「評価経済社会」について論じていて、概ね首肯する内容でまとめていたのでご関心のある方はぜひ読んでいただきたいのですよ。
きわめて同意するのは、トフラーさんの『第三の波』やドラッカー『すでに起こった未来』のような情報が貴重なリソースとなる社会、経済がやって来ると言う未来学や経営学を岡田斗司夫さんが良い意味でパクってアレンジし、これらのネタ本の要素を組み合わせてイケてない日本人の教典にした、というあたりが新鮮なのです。
その結果、評価経済をもてはやす動きが出たのは言わずもがな、堀江貴文さんや田端信太郎さんのような実力主義者的なマッチョリズムの界隈であったり、いわゆる努力教に近い幻冬舎やリクルートマインドに近いところで大変に利用しがいがあったのは間違いないのです。
それも、イケてない人は本当にフォロワー数は少なく誰からも注目されないという大前提は誰の目にも分かりやすく、その見たところイケてない人には価値がないというのはビジネスでも家庭でも「プレゼン優先」で、誰がなんのために働いているのか分かりやすく説明しろというアピールをできなければいないも同然であるという価値観によって構成されています。ある意味でそれは正しく、力強い。一方で、これからの人や、本来はアピールが苦手だけどしっかりとした実績を積み重ねることができる人は往々にして不利になる言説であることは間違いありません。
マネジメントの要諦で言うならば、そういう自分からは声を上げないけどしっかりと働いてくれている人たちに対する目くばせをし、やる気を引き出し、さらなる価値を生んでくれるよう肩を抱き合いながら前に進んでいくことのほうが私は大事だと思っています。やろうと思ってもなかなかできないけど。
で、久保内さんはインフルエンサーは鵜飼いの鵜にすぎず、この偽物の価値観である評価経済によって儲けているのはプラットフォーム事業者であるということは完全に見抜いていて、ぶっちゃけ一利用者に過ぎない評価経済プレイヤーが手のひらであるプラットフォーム事業者の構造を分かった風にするのは良くないと喝破しているのも読後感としては爽快に思います。そして、流通してしまっている情報は価値ゼロになる以上、一度そのラットレースに乗り出してしまえばどんどん情報を出し続けなければならず、消費しきってしまう部分はあるのでしょう。発表してナンボ、読まれてナンボ、リツイやPVの数で評価が決まるフォロワー型経済のラットレーサーとして、その筆頭がインフルエンサーなんだよとすれば「頭一つ出ること」よりも「頭を出し続けること」のほうがむつかしくなるのですよ。
つまりは、いまのネットのプラットフォーム事業者が作り上げた仕組みに最適化した生き方をまとめたものが岡田斗司夫さんの「評価経済」に過ぎず、それは90年代に流行した未来学のパクりであり、目に見える成果・スコアを目指して第三者から分かりやすい影響力を確保するための仕組みとして内包したものにすぎません。いわば、本業のない人が信者商売するための教典であって、それ以上でもそれ以下でもない。にもかかわらず、いわゆるネット強者やインフルエンサー商売で小銭を稼いでいる人たちからすれば「評価経済」は自己正当化はもちろん見た目のフォロワーが増えれば自分の意見を聞いてくれる人も増えて広告や物販など具体的な売り上げが回るという、なかなかシビアな世界に突き進んでいるわけですよね。
当然のことながら、肩書であれ実績であれ一度このラットレースの世界に入ってしまうと、現場から切り離されてあっという間に消耗してしまいます。何年も前に所属した大企業での経験をネタにいつまでも浪花節をやる経済言論人は多いわけですけれども、この辺の塩梅はなかなかむつかしいよなあ、と。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.Vol.300 評価経済バブルのツケをあれこれ考察しつつ、ポスト都知事選の政界を予想したりAIマンセーな風潮を危ぶんだりする回
2020年6月25日発行号 目次
【0. 序文】無駄に混迷する都知事選、都知事・小池百合子が迎え撃つ堀江貴文、宇都宮健児の勝ち筋
【1. インシデント1】トランプ大統領VSツイッター本社、意味が良く分からないけど譲れない戦いが勃発
【2. インシデント2】セキュリティ対策というなにか闇のようなもの
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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