やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

自民党総裁選目前! 次世代有力政治家は日本をどうしようと考えているのか


 29日投開票が行われる自由民主党の総裁選ですが、概ねの下馬評通り国民・自民党員の声望を受けて党員票大量確保に望みをかける河野太郎さんが徐々に苦戦、一回目の投票で過半数を超えられない情勢になってきました。

 決選投票では383票あった党員票ではなく47票の都道府県代表による投票になりますので、必然的に党員よりも議員からの声望を集めている議員が有利になることもあり、河野太郎さんよりも議員間での声望の高い岸田文雄さんが決戦投票に残る見込みになりますと一気に岸田政権誕生へと弾みがつくことになります。

 今回は野田聖子さんの駆け込み出馬という面白い現象もあり、当初は「河野太郎票を割るための出馬」と横に見られていたものの、いざ蓋を開けて総裁選を始めてみると野田聖子さんがいたので次世代を担う男女同数の自民党有力議員が政策を巡ってアピールし論戦するというスタイルになって実に見栄えの良い総裁選となりました。

 その結果、9月中にも解散総選挙もあるかもということで定点観測をしていた各種世論調査では自民党支持率、次期総理として期待する政治家ばかりか菅政権支持率まで回復。

 必要だったのは希望や期待感だったのだという話に逆戻りしてしまい、さらには「立憲民主党支持者がいまもっとも期待する政治家に自民党の河野太郎さんがトップ」というとんでもない現象まで起こしてしまいました。酷いことだと思います。

 それもこれも野党が地盤沈下して魅力のない主張を繰り返しているから悪いのだという野党失点論も台頭する中で、やはり気になるのは自民党内の力学も使いながら新たに出てきた岸田文雄さん、河野太郎さん、高市早苗さん、野田聖子さん4名の候補が打ち出す政策への評価がそれなりに高いことです。

 長らく次の総理ポストに座り続けた岸田文雄さんがもちろん無難で安定した政策主張をされて安心感がある一方、当初は安倍晋三さんに担がれアベノガール的なポジションなのかと思いきや勉強家でもある高市早苗さんのウイングの広い政策主張も目を惹きました。

 他方、河野太郎さんも当初心配された原発再稼働反対も含めた過激な政策が影を潜め、切っ先の鋭い議論で物議を醸すことを良しとするような河野節をあまり見ないまま、無難な主張で多くの票を集めたいという意欲すら感じさせます。これを丸くなってつまらなくなったと評するか、椅子を狙うためには自説を曲げてでも多くの人たちの支持を集めようとする政治家に脱皮できたと解するかは受け取る人それぞれといったところでしょうか。

 ただ、党員票も議員票も想像以上に生々しい動きをするようで、本稿執筆中の27日時点で私の知り得る職域党員票はほぼすべて投票を終えていました。郵送な上に土日を挟むので木曜には党員票を取りまとめて投函されたところがほとんどでしたが、ここで出ていたのは産業界では特に電気を使うところほど保守的な政治家選びをする中で「岸田さんなら酷いことにはならないだろうし、選挙の顔としても河野さんほどではないけど戦える人物だ」という考えのもとで岸田さんに流れていました。あくまで産業を代表して党員票を握っている皆さんの話なので必ずしもすべての自民党員の代表性がある前提での話ではありませんが、人選においてまず「大丈夫であること」が前に出るのは当然とも言えます。

 そして、これらの政策を誘導しているのはおおきく分けて「コロナ対策としての経済対策の中身」と「再生エネルギーなどへの取り組みを通じて電力価格が上がるかどうか」だと皆さん結構口をそろえて仰います。おそらくここは国民の考え方と違うところです。

 ジェネラルな世論調査で見ると、再生エネルギー関連の政策は概ね「コロナ対策」「経済・雇用対策」「年金・社会保障」「外交・安全保障」に次いで5番目ぐらいの争点です。これ単体に、例えば演説で目配せをすることはあっても、今回特にテーマとなった少子化や子どもの育てやすさも含めた社会保障よりもどの候補も使う時間が短くなっています。

 しかしながら、自民党員の中でも一定の割合を占める産業票は電力代は経済対策と並ぶ死活問題なので、製造業や物流の人たちは電力代が上がる再生エネルギー推しになっている河野太郎さんが仮に人気だとしても票を入れる理由がないことになります。

 また、新産業系、アントレプレナーとか創業支援とかで頑張りたいという人たちの間では、高市早苗さんが人気です。総務大臣時代からクレバーな振る舞いをしていた高市さんはこのキャリアの中で良い人脈でも掴んでいるのかもしれません。

 このあたりの機微が伝わるようになってから、俄然、自主投票を決め込んでいた大手派閥の人たちの動きも活発になりました。個人的には本人が特定候補の決起集会に出席していたのに動向を見てまったく違う候補者に投票しようとするばかりか同派閥の同僚議員に寝返りを唆している現場を見てしまったりすると、ああ、これぞザ・選挙なのだなと思うわけです。推薦人は記名式だけど投票は匿名・無記名だからこそ起きる事象であります。

 ここでも、高市票、河野票、岸田票相互の切り崩しが起きているわけですが、議員の問題はふたつ、自分のポジションが回ってくることがあり得るかと、選挙の顔として有利になるかどうかです。後者で河野太郎さんを推す声が強かったのも、国民的声望の高い河野太郎さんだけでなく、小泉進次郎さん、石破茂さんといった名物男が結集して選挙戦を戦えば自分は議席を確保できる可能性は高まる、ということで歓迎する話が当初はありました。

 ところが、総裁選がメディアで大きく取り上げられ、国民の一大関心事となって自民党の支持率が上昇に転じると、河野太郎さんじゃなくても勝てるんじゃないかという話になります。この辺、大変微妙なところなのですが、不人気だから菅義偉さんを降ろしたところまでは良かったけど次の人選は人気者でとなるはずが、自民党の党そのものの人気が快復してしまったことで、選挙互助会としての自民党はすでに総裁選の条件をある程度整えてしまったのです。

 そうなると、派閥横断で安定した基盤を持つ政治家が良いという話になると、岸田陣営も高市陣営も浸透が進む一方、圧倒的な党員票を確保して一回目の投票で過半数を取る戦略が潰えそうになっている河野陣営は一気に草刈り場になりかねません。週末から月曜日にかけて、地元の意見も聞きながら最終的な判断をしようとしている議員さんも多い中で岸田さんが地滑り的勝利をするんじゃないか、話をするならまず岸田さんじゃないかと言っている議員さんが中堅も若手も含めておられたというのは印象的です。

 さらに、道中石破茂さんが出馬取りやめまでのプロセスで河野太郎さん支持の動きをしたことで、石破さんが嫌いな議員さんたちがこぞって高市支持の動きを強めたのも興味深い話です。個人的には石破さんは分かってて面白い風の話をされる堅物であることは承知しているので、議員さんが石破さんに持っている「反党的言論」というのは石破さんなりの筋として何でも意見が言える自由で風通し良い政党としての象徴を演じてる面もあろうかと思うのですが、党員票がそこまで圧倒的にならなさそうだ、一回目で過半数は無理そうだとなると、一気にキングボンビーとなります。

 また、具体的な政策論が総裁選で出るようになり、メディアでも大きく扱われるようになると、小泉進次郎さんも俄然影が薄くなります。正直込み入った政策論に立ち入れるほど小泉さんは言葉を持っていないのもあり、平場で小泉さんの意見を聞いて報じる必要もないからかもしれませんが、いずれにせよ小泉さんの発言は再生エネルギー絡みで高市発言に反論したというネタが取り上げられる程度で、実に静かなものです。

 つまりは、今回の総裁選では日本が抱える問題について、各候補者がきちんと政策パッケージを披露して政権運営として日本をどうしようとしているのか、かなり人柄と政策両面で露出したなと思うわけですよ。もう各候補者も支えている人たちも充分知ってるよと言いたいところなんですが、それでもいざ各項目について具体的に国民の前で話すとなると、準備不足かしっかり考えてきたかが意外にハッキリわかるものです。また、取り上げるメディアの質問に対してキレたかどうか、他の候補者に対する反応は適正かどうかも含めて、人間性や真剣さなんてのも炙り出されて、私は非常に面白いなと思って見ておりました。

 良くも悪くもこれが日本政治の楽しさであると同時に、ここで前に立てる4人はやはりひとかどの人物なのだろうと思いますし、ここで名前の挙がらない、出馬したくても20人の推薦人を捻り出せない中堅以上の政治家は先行きが厳しいんじゃないかとも感じます。ま、結果論ですけどね。でも、政治家として志を抱いて頑張ってきたからには、権力闘争も厭わず国民のために身体を燃やして挑戦する姿勢というのは本当に大事なことだと思うんですよ。

 これが日本の本来持つ民主主義の良いプロセスなのだなと改めて感じた次第です。

 野党にも地方政治にも、どうかこの手のダイナミズムがしっかり根付きますように。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.345 自民党総裁選をみて思うことを語りつつ、中国不動産バブル崩壊やLNG価格高騰などのあれこれに触れる回
2021年9月28日発行号 目次
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【0. 序文】「控えめに言って、グダグダ」9月政局と総裁選
【1. インシデント1】YouTube小林よしのりチャンネルBANの波紋
【2. インシデント2】中華「Arm China社」知的財産ロバリーと今後
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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