
改めて研究結果として示された本件ですが、渋谷健司先生ら研究チームの結論を見てネット社会もさざめいておりました。少子高齢化対策の中でももっとも政治的に難易度の高い少子化対策は常識的な政策というよりはもっと深層の社会心理による影響が大きいうえ、少子化は多かれ少なかれ多くの国や社会共通の問題であることを考えると「解決しない」前提で物事を考えるほかないのではないかと思うわけです(以前からそう主張してはいますが)。
産まない高学歴と貧困の子沢山...そんな時代はもう終わっていた 日本の少子化を分析した論文が浮き彫りにした現代の格差とは
個人的には、ツイートにもありましたが少子化が進む仮説として、子どもを生み育てる行為そのものの社会的地位の低下の原因はやはり「子どもが労働力であった時代」と「子どもがたくさん死んだ時代」が過ぎ去ったことが背景にあるのだろうと思います。
子どもを生み、育てることが、貧困社会の貴重な労働力であった時代は「貧乏子だくさん」の原動力でもあり、それが文明化して子どもの権利が一定の確保をされるようになると子どもを儲けることそのものが夫婦に対するコストに化けてしまいます。その結果、結婚すること、子どもを育てることがその夫婦の利得にはならないばかりか、夫婦が生きていくためのリソースを消費するのだとなった場合には明確にリスク要因となるため、子どもを儲けないか、一人または二人で抑えることが成人男女の利益に合致することは間違いないと思うのです。
必然的に、政府が子どもを生みましょうとキャンペーンを打ったところで、民主主義社会においては結婚することや子どもを儲けることは個人の自由の範疇となり、そこに政策的に踏み込むことが困難になる。同時に、子どもが成人し、所得を得られる存在になるために必要な投資を考えた場合には、やはりある程度お金を持っている人、地位のある人しか複数の子どもを好んでは持たないだろうということもまた意味します。
さらには、これも指摘にありましたが、社会の変容として、男女間の出産経験ギャップはどうしても顕在化します。単純に夫婦間の離婚件数・割合が絶対的に増えていけば、両親が揃わない子どもの割合が3割とか4割とかになることも間違いありませんし、子どもを持たない男性が4割に迫る代わりに子どもを持たない女性が2割程度で推移していくのであれば、これは事実上経済力のある男性が複数の女性に子どもを育ませる秘めやかなカルチャーが実は内在しているのではないかという統計的証拠となります。
国民としても、政府が社会や経済のために子どもを生んでくれと言ったところで、自分たちの所得や老後の資金を削ってまで子どもを多く生み育てるインセンティブがないよとなれば、これは少子化がダイレクトに経済問題になるというのは当然のことです。
同様に、結婚できない男女は低所得者層に増えることは、そのまま階層の固定化や、ある種の優生学的アプローチで社会が自動的に進んでいってしまう危険さえも孕みます。他方で、都市部ではない地域で三世代同居・近居の家族が子どもを生む割合が大きいことを考えれば、いかにして大家族や地域社会が子育てを歓迎する環境づくりが大事であるかが改めて示されることになります。
だからデジタル田園都市なんだとか言われると椅子から落ちる面もありますが、論考としては従来の考察を補強するものであって、何ら違和感なく受け止められるべきことであると同時に、一連の対策を打つにあたって1996年のエンゼルプラン以降必要な議論は25年の時間を経てすでに出揃っているんだということを実感する次第であります。
元論文は冒頭に示しましたので、ご関心がある向きはぜひご一読賜れれば幸いです。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.368 少子化問題は解決しないという現実を見つめながら、これからのビッグテックとの付き合い方や我が国の妙なMFTビジネスのあり方について語る回
2022年5月1日発行号 目次

【0. 序文】所得が高い人ほど子どもを持ち、子どもを持てない男性が4割に迫る世界で
【1. インシデント1】ビッグテックとのおつきあいをこれからどうするかという大きな課題
【2. インシデント2】我が国のNFTは一体どこへ向かうのでしょうか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】メルカリ不正利用問題に見るKYCとAML/CFT対応の実際
【5. インシデント4】何が修羅場かを教えてやるぞ
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