※高城未来研究所【Future Report】Vol.681(7月5日)より
今週は札幌にいます。
この時期の北海道は、梅雨の悪天候に悩まされることもなく、また猛暑に苦しむこともない、大変過ごしやすい季節です。
現在、札幌はニセコや美瑛などの北海道観光の玄関口として多くの観光客が訪れ、心地よい夏休みも雪を楽しめる冬休みも、交通機関や宿泊施設が大混雑するオーバーツーリズム状態にあります。
そこで先週、札幌市は2026年4月の導入を目指す「宿泊税」の概要案を公開しました。
これによりますと、宿泊費が5万円未満に200円、5万円以上に500円の宿泊税を課すとしていて、税収は年間およそ27.5億円を見込み、これを原資に宿泊施設や公共交通のバリアフリー化や、オーバーツーリズム対策に使うことを想定しています。
しかし、近著「観光大国スペインに見る、オーバーツーリズムの現在と未来」でもお伝えしましたように、宿泊税や観光税の導入は問題の解決に至りません。
観光税や宿泊税はその名のとおり観光客から徴収する税金であり、税収は観光地のインフラ整備などに使われる建前になっていますので、オーバーツーリズム対策のひとつの答えであることは確かです。
しかし、バルセロナは2012年にヨーロッパの中でも高い水準の観光税や宿泊税を導入しましたが、結局は観光プロモーションに使われたため、かえって観光客を増やす結果になりました。
本来、観光税や宿泊税を徴収するのであれば、市民の生活レベルの向上に使うべきなのでしょうが、そうはなっていない現実があり、単に地域政府が増税で潤うだけになるのは先駆地域の教えです。
しかもホテル代に加算される観光税や宿泊税には致命的な問題があります。
それは、「宿泊しない観光客に課税できない」点です。
ホテルに宿泊した日数に応じて宿泊税や観光税がかかるわけですから、たとえばクルーズ船でやってきて四時間程度で港を出て行く観光客には税金をかけられませんし、ニセコなどに向かうために札幌市内に宿泊しない観光客も大多数います。
その上、新しい税システムを導入することで、むしろ観光業者に手間やコストが増えて、必ず中間業者が跋扈し、新たな観光利権が生まれます。
ここ数週間「世界の俯瞰図」や自著でお伝えしているように、オーバーツーリズムと移民問題は同根です。
いま、世界一の観光大国フランスで起きていることを見ればわかると思いますが、オーバーツーリズムが行き着く成れの果ては、新しい保守主義や極右政権を生み出すのが歴史の教えです。
もはや観光客依存に陥りつつある日本各地の地方都市。
その行き着く先は、気がつくとフランス同様になるのだろうなと考える今週です。
どちらにしろ2周遅れです。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.681 7月5日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。


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